【求職日記 ♯8】突然の来客、大手保険会社のマネージャーのポストを提案される

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僕は3Dモデラーのスキルを習得したいと、かなり前向きになっていた。

インターネットで、3Dモデラーのことをたくさん調べたりしながら、就労移行支援B型のWeb面談の日を待つ、心穏やかな日々を送っていた。

すると、インターホンが鳴った。

なんだろうと思い、インターホンの画面に向かって「はい」と声を出すと、どうやら保険会社の人のようだった。

一度、インターホン越しに会話をすると、無下に断ることができないので、「ちょっと待ってください」といって、玄関のドアを開けた。

男性と女性の二人が立っていた。

どうやら、保険の勧誘に来たわけではなくて、あいさつ回りをしているようだった。そして、アンケートが用意されていて、それに答えるとハーゲンダッツの無料チケットが貰えるということだったので、「それなら、アンケートに答えます!」とアンケートをはじめた。

アンケートの中で「どんな趣味がありますか?」という質問があり「登山です」と答えると、「どこらへんの山に登られるんですか?」という話になり、「栃木のそのへんの山に登るんですけど、僕はずっと愛媛の松山に住んでいたので、愛媛の山にたくさん登っていました」と答えた。

すると女性の方から「松山出身なんですか!?私も3年間、松山に住んでいたんです!」という反応が返ってきて、そこから話が盛り上がった。

男性の方は、優しそうな雰囲気の人で、話のところどころに相槌を挟んでくれていた。

そして話の流れで「僕が無職で、いまは職をさがしていること」を伝えると、彼女が「実は、私達は挨拶回りもしているんですが、わたしたちの会社で働く人も探しているんですよ」「それで、わたしたちの会社の見学ツアーみたいなものをやっていて、保険会社の人がどんな仕事をしているのかを事務所で実際に見てもらうということもやっているんです」と教えてくれた。

突然の話に、「えっ、どうしようか」と一瞬思ったけど、彼女に「もしよかったら、アポを取らせていただいでもいいですか?」と聞かれ、「はい、お願いします!」と答えた。

いろんなことを経験してみたいし、面白そうだと思ったからだ。

そして二人がお互いのスケジュールを確認し、「あのー、いまスケジュールを確認したんですけど、ちょうどいま二人とも空いているので、いまからはどうですか?」と驚きの答えが返ってきた。

僕は「はい、大丈夫です!」と返した。いま、勢いで行ってしまったほうが、緊張しなくて済むからだ。

そして二人の車に乗り込んだ。

ちなみに僕はいま、フィリピン人パートナーのご両親が来日していて、僕たちと一緒に暮らしている。

知らない人の車に乗り込む僕を見たご両親が、誘拐されるかもしれないと車のナンバーフレートをメモ帳に書き残してくれていたようだった(笑)

車の中での会話で、女性の方とたくさん話した。

彼女は僕と同じく、感受性が豊かな芸術家タイプだった。それは向こうも、ひと目見たときから感じていたらしく、話が盛り上がった。

僕は、フィリピン人の同性パートナーがいることや、そのために英語をたくさん勉強したこと、そしてその勢いで翻訳の仕事をしようと思っていたけど、あまりにハードルが高すぎて諦めたことなんかを話した。

すると、彼女も実は「翻訳や通訳」の大学に通っていたようで、また話が合った。でも、彼女は翻訳・通訳士として働きたかったわけではなく、CAや外国人を相手にしたホテルなどで働きたかったので、英語の勉強はある程度で切り上げて、ホスピタリティなどの勉強に時間を費やしたようだった。

男性の方は、前の会社では事務員として働いていたけど、営業がやりたくて今の会社に移ったようだった。

ちなみに彼に「失礼な言い方かもしれないですが、営業のなにが楽しいんですか?」と聞くと、「実際に営業で出会った人たちと友達になることもあるんですよね」「保険の営業とは関係なく、話が盛り上がったら、ラーメン屋さんにでも行きますかと、初めてあった人とラーメン屋さんに行くこともある」らしい。

へぇ~、そんなことがあるのかぁ。世の中にはいろんな人がいるんだなぁと思った。

そして会社に到着し、事務所に入る。

ちょっと緊張しながら「こんにちは~」と事務所内の人にあいさつをすると、明るい雰囲気のあいさつが返ってきた。

パネルで仕切られた小部屋に案内されて、さっきの女性がペットボトルの飲み物を持ってきてくれた。

すると、営業所長が現れ、名刺を渡しながら挨拶をしてくれた。

ビジネスマナーを知らない僕だけど、椅子から立ち上がり、「はじめまして、〇〇です」と自分の名前を伝える。もちろん名刺なんかはない。

そしてその営業所長と会話を始める。

彼女は「栃木はどうですか?」と苦い表情で僕に聞いてきた。

僕は「ひょっとして、ずっと栃木に住まれているんですか?」と返すと、「そうなんです。大学のときは東京に行ってたんですけどね」と返ってきた。

「ずっと地元に住んでいると、地元の嫌なところが目につきますよね」と話した。どうやら、栃木の人は最初は相手に対してものすごく警戒するらしい。でも、一度心を開くと、一気に心の距離が縮まるという県民性だそうだ。

そんな軽い雑談から始まり、僕の経歴や、なぜ栃木に引っ越してきたのかなどを話した。

そして、僕の家のインターホンを押した二人も席に着き、会話に加わった。

(ここからは、インターホンを押した女性の方をSさんと呼び、男性の方をTさんと呼ぶことにする)

四人で会話が盛り上がり、楽しい時間を過ごした。

そして営業所長が「うちの会社は女性が多いんですけども、女性と男性でそれぞれ役割が違うんです」と始めた。

「女性はみんな個人事業主の立ち位置なんです。この保険会社という土地のなかに、それぞれがそれぞれの会社を立てているという感じです」と頭が混乱しそうな話が始まった。

「そして、男性は、その会社の中の人たちをマネージメントするというのが主な仕事なんです。マネージャーですね」

「そこで、〇〇さんにそのマネージャーとしての仕事をいま紹介しようとしている訳なんです」

!????

マネージャー!?

この僕が!??

あまりに驚いたので、笑いが出てくる。そして、「いやぁ、無理ですよ。自信ないです」と答えると、「最初はみんなそう言うんです。だから、そのためのカリキュラムがあるんです」と彼女の視線が、テーブルの上に向いた。

そこにはカリキュラムの冊子があった。

え、え、え?

この事務所に来たのも急な話だったし、その事務所でマネージャーにならないかと持ちかけられたことで、頭が混乱しっぱなしだった。

「でも、僕は介助の仕事しかしたことないですし、ビジネスマナーも知らないですし…」というと、「なるほど、でも〇〇さんの人柄がいいんですよ」「言葉のチョイスも面白いですし」と言ってくれた。

それに対して、Sさんも同意してくれて、営業所長とSさんにものすごく褒められて、なんだか心地よかった。

でも、僕はこの三人に大事なことを一つ、まだ話していなかった。

「ちなみに僕は大学を中退したんですけど、その理由が精神疾患なんですね。だからメンタルが弱いですし、電話なんかでもすごく緊張してしまうんです。いまでも、毎月薬を心療内科でもらっているんですけど、それを飲んでいるから普通に生活ができる状態なんですね」といった。

すると、Sさんが「それはメンタルが弱いからじゃないんです、真面目に真剣に生きているから、そうなったんです。それは弱さじゃなくて強さですよ!」といってくれた。

ただ、営業所長は所長なので、ビジネス的な観点からものごとを考えないといけない立場だ。

彼女は「もしかして障害者手帳を、お持ちですか?」と僕に聞き、「はい、持っています」と僕は答えた。

そして彼女の表情が、0.1段階曇ったのを感じた。

「障害者手帳を持っていると、確かここで働けなかったと思うんです」といいながら、彼女はTさんに「ちょっと確かめてきてくれる?」と伝えた。

そしてTさんがパネルの外に向かう。

その間、雑談をしていたけど、営業所長の言葉と表情にキレがなくなっているのを感じた。でも、Sさんは変わらず、親しくたくさん話してくれる。

そして、返ってきたTさんの反応を営業所長が見て、「やっぱり無理なようですね。すみません、わざわざ来ていただいたのに」といわれた。

でも僕も最初から「自分に務まるわけがない」と思っていたし、「大丈夫ですよ」といって話が終わった。

そのまま、SさんとTさんと、三人でまた車に乗り込む。

Sさんは相変わらず、たくさん話しかけてくれるし、たくさん質問をしてくれる。

Tさんも、穏やかで優しい雰囲気だ。

事務所の雰囲気もよかったし、自由な社風だったし、あんな空間で働けたらなぁと少し思った。

別れ際「Sさんが、よかったらプラベートでもまた会いましょう!」といってくれた。

そして家に戻った。

短い冒険だったけど、面白かった。

パートナーが仕事から帰り、このことを話した。

すると「もし〇〇に、精神疾患がなかったら、マネージャーになれてたの?すごいね、ははは!」と返ってきた。

僕も「この僕が、大手保険会社のマネージャー候補だって。すごいでしょ、ははは!」と二人で笑った。

ただ、事務所の小部屋で四人で楽しく談笑していたのに、僕に精神疾患があるということがわかった途端、営業所長の表情が曇ったのが、少しショックだった。

同じ世界にいると思っていたのに、僕だけ違う世界の住人だと気付かされたような気分だった。

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著者

栃木県在住の35歳。

34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越し、ヘルパーの仕事をやめて無職になる。躁うつ病(完解済み)・同性愛・発達障害グレーゾーン当事者。趣味は登山で、ニュージーランド1300kmの歩き旅を終えたばかり。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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