テントを背負って山に入るとき、登山口でいつも寂しくなります。
「今夜はパートナーと話せないのか」「一緒にNetflixを観られないのか…」、切なくて引き返したい気持ちになりながらも「えいっ」と一歩、山へ踏み出します。
人のいない、長い山道を歩きます。
僕は人のいないマイナーな山が好きです。人の気配がすると、なんだか落ち着かなくて自然体でいられなくなるので、マイナーな山を選びます。
その道中、雨が降ることもあります。雨と霧で真っ白になった世界を一人で歩いていると、そして、足場が悪くて滑落しないように気合を入れて一人で歩いていると、いままでの日常の出来事や景色を思い出します。
「パートナーと一緒にNetflixを見ていた日々」
「パートナーと台所で料理を作りながら、話をしていた日々」「パートナーと一緒に過ごしている家の何気ない景色」
「パートナーの友人たちと遊んだ時に、なんでもないことで、僕が不機嫌になった日」「店員の態度に腹が立った日」
その全てに戻りたいような、恋しい気持ちになります。
日常には彩りがあります。
良いことも悪いことも、いろんなことがあります。とにかく、いろんなモノやコトがたくさんあって、良いも悪いも、にぎやかで、うるさい日々です。山に行くとそのことに気付かされます。
そして色には、人によってそれぞれ色んなイメージがあると思います。楽しくて無邪気なイエロー。悲しみのブルー。情熱がほとばしるレッド。憂鬱で暗いブラック。
ですが、山で日常を思い起こすとき、イエローな日はトパーズに。ブルーな日はサファイアに。レッドな日はルビー。そして、ブラックな日は黒曜石になります。
「日常の全ての感情や思い出は、良いことでも悪いことでも、美しかったんだな…」と気付くのです。
かなり嫌だったことには戻りたくないので、「全て」というのは言い過ぎなのかもしれませんが、なんだかそんな気持ちになるのです。
単純には言えないでしょうが、もともと僕たちが持っている日々というのは、サファイアやルビーや黒曜石のようなもので、だけど生きることが当たり前になった今の生活では、それらがただのブルーやレッド、そしてブラックになっているのかな、と思ったりもします。
そんなことを気付かせてくれて、日常のすばらしさを思い出させてくれるテント泊登山。
街での日常生活に憧れるために、またテントを担いで山に行こうと思います。
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