念願の、はじめてのテント泊登山。
計画段階ではワクワクしてたのに、行く直前は99%不安状態でした。「水が重要だ!」と11Lの水を入れたザックは、総重量21kg。
登山に詳しい友人に報告したら、「ちょっと電話する?」と返信。
どうやら「21kgは雪山に行く時みたいなアホみたいに重い重量」で、絶対に脚にくるから減らした方が良いということ。あと、僕の計画していたコースよりも臨機応変に対応できる新しいコース(ベースキャンプ型)をつくってくれました。
でも、何事も挑戦です!
3L水を減らしましたが、まだ重いザックのままで向かいました。(どれだけ大変なのか、失敗してみたかったのです)
そして開始2分で、その友人の言っていたことを理解し始め、開始20分で完全に理解しました。
背の高い藪に囲まれたルートを歩いていました。
曲がりくねっていたのですが、少し歩くと、白くてかなりデカい動物の頭が藪の間から見え、目が合いました。
「ヤバい!早速、野生生物か!」と一瞬身構えましたが、白かったのでひょっとして…、と歩を進めると、白く大きな犬と飼い主のおじさんに会いました。
犬の方は好奇心でしっぽを振りながら僕の方に向かってきましたが、おじさんが「すみませんねぇ、こらこら(犬に対して)」と笑いながら犬を藪の中に押し込めて道を空けてくれました。その光景が面白くて僕も笑いながら挨拶をしました。
前々司から折り返して、15時ごろ竜神平に戻ると、そこには誰もいませんでした。
いつもは必ず人がいる竜神平に人がいない…。少し心細くなってきました。 とりあえず、まだ体力的には余裕だったので皿ヶ嶺に登りました。山頂に着くと、太陽がだいぶ沈んでいました。その低くなった太陽を見ると急に心細くなってきて、寂しくなりました。
皿ヶ嶺から降りてきても、竜神平にはあいかわらず人がいません。
この心細さと、山の怖さを感じたくてテント泊を決行したのですが、「僕は、テント泊に向いてないのかな…」「やっぱり日帰りだけでも良いかもな…」と弱気になっていました。
まだ明るかったのですが、水場に水を汲みに行くと、茂みから野生生物が威嚇しているような唸り声が聞こえてきました。怖かったですが、無心で水を汲み、無心でテントに戻りました。
夜、暗くなったあと。
テントの外で晩御飯を作るためにお湯を沸かしていました。
はじめての夜の山。なにかに襲われるんじゃないかと、手元にずっとペグ(テントを固定するための、先のとがった棒)を準備していました。とにかくビクビクしていました。
すると、突然「ゴトゴトゴトゴト…」と動物の唸り声のようなものが聞こえました。
やばい!と思って、手にペグを構えます。戦闘モードで辺りをしばらく見渡していました。ですが姿を現しません。
しばらくして…、目の前のお湯が沸騰していることに気が付きました。
「ゴトゴト」言っています。
全身の力が一気に抜けました…。
怖がっていると、「お湯の沸いている音を、動物の唸り声と勘違いしてしまうものなのか」とある意味衝撃でした。
そして、ホッとしていると…
「ゴロゴロゴロゴロ…」と今度はかなり大きな音が聞こえました!
これはお湯の沸騰とか、そういうレベルの音じゃない。間違いなく獣だ。しかも、かなり大きい!とペグをぎゅと握ります。静寂のなか全身の感覚を研ぎ澄まし、獣を探知します。
――――しばらくして、気付きました。
空がゴロゴロ鳴っていました。
「なにやってんだ、自分!」と無理やり笑います。
自然という掌の上で、コロコロ転がり続ける自分の小ささを感じた夜でした。
その後、テントに入りました。
四方を布に囲まれたテントの中は、まるで天国のようでした。 布切れ一枚を、僕と外の間にはさんだだけで、こんなに心が落ちつくのか、と少し感動しました。
テントの中で、切れかかっていた靴紐を新しいものに変えたり、清拭をしたり、物の整理をしたりしていると心のペースが戻ってきました。
友人からテント泊のお供としてラジオを勧められたので、持ってきていました。
「テント泊の夜は長いよ」「やることがないよ」と。
早速、付けましたが、どこの局も選挙速報しかやっていなかったので、すぐに切りました。
結局その夜は、「次はどこでテント泊をしようかなぁ」と計画を考えていて興奮であまり眠れませんでした。
そして、朝がきました。
早朝、4:30ころ。
目が覚めて外にでると、気持ちの良い霧と鳥の鳴き声が聞こえました。その美しい世界と、まだ少し寝ぼけた脳があいまって作りだす不思議な感覚…。
「朝が来たんだ」と時間が経つことにも少し感動を覚えました。
「ついに、テント泊ができた!」
高揚した気持ちのまま、朝ご飯をつくり、食べ、登山口に向けて下山を開始します。
僕は早起きが苦手なのですが、朝のすがすがしい空気が好きです。
朝日が昇り、黄金色に輝く世界の中を歩きながら、背中でその太陽のぬくもりを感じていました。僕を包んでいる輝く世界は、心までをも光で塗りあげます。
その朝日は、自然におびえながら不安な夜を乗りきった僕の背中をそっとさすってくれる、自然からの「ご褒美」のようでした。
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