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【ロングライド ♯3】日本海が見たい!群馬・新潟・福島・栃木を走る680kmの自転車旅

もくじ

3日目

朝6:30。

他の宿泊客がまだ寝ているなか、きしむ床を鳴らさないように、そーっと歩いて宿を出る。

荷物を自転車に取り付けているとき、身体の疲れを感じた。

青空の中、スタートする。

疲れは、食事が不十分だからかもしれない。どこかでスーパーを見つけてなにか買おう。

身体が疲れていて空腹の状態で走りながら、ぼんやりと過去の思い出を振り返っていたら、少し涙が出てきた。泣いたら少し、気持ちよくなった。気を張りすぎていたのかもしれない。

南魚沼の田舎道を走る。

スーパーの駐輪場でバナナを食べていたら、僕の前に車がとまった。車の中にいるお母さんが、隣に座っている3歳くらいの女の子に、僕を見せながら何か言っている。

「ほら見て、ああやって自転車で旅をしている人がいるんだよ」といっているのだろうか。車の中のお母さんと目が合うことはなかったが、車が再出発する間際、女の子に手を振ったら、笑顔で振り返してくれた。

そして、田んぼに囲まれた大地の中を、ポツンと一人、ただひたすらペダルを漕ぐ。

「そうか、ここは新潟か」と、ふと気が付いた。

電車やバスで旅行に行くのと違って、自転車で旅をしていると、ずっと地続きだから変化に気付きにくい。

「これが、新潟!」という形でJR新潟駅の正面にいきなり立つわけでもないから、どの県を走っても、「大体同じような道路をいつも走っている」という感覚になる。

そして、「せっかく新潟にいるのならアレを食べないと」と思い、ネットで見つけたお店に到着した。

普通の一軒家に、お店がちょこっと付いているような場所だった。

お店に入ると誰もおらず、「こんにちは~!」と挨拶すると、「はいはい、ちょっと待ってくださいね」と遠くから声がした。しばらくすると、おばあちゃんが出てきた。そして、食べたいものを注文すると、すぐに作り始めてくれた。

そのあとは、近くの公園まで移動する。

バッグの中から、注文したものを取り出す。

うまそうな、おにぎり!!!

「早く食べたい」

ラップを外すのを急ぎすぎるあまりに、おにぎりを地面に落とさないように、急ぎながらも慎重にはがしてゆく。

そして、食べる。

うまい!!!!!

うますぎる!!!!!

五臓六腑ごぞうろっぷに染み渡る」とはこのことだった!

空腹の僕には、新潟県産コシヒカリの一粒一粒が宝石のように輝いて見えた。お米の濃厚な食感と、リッチなテイストがたまらない。このお米の一粒一粒が、僕の身体を埋めてくれると思うだけで、心強くなれた。もっともっと、このお米で身体をいっぱいにしたい。埋め尽くしたい。

そう思って、立ち上がった。

「すみませ~ん」

「めちゃくちゃ美味しかったので、あと4つください!」というと、おばあちゃんは喜んだ様子で、おにぎりを握ってくれた。優しいおばあちゃんで、このお店のことや、プライベートなことも話してくれた。

そして、再び公園に移動する。

「うまい…」

お腹いっぱいで、また走り出す。

コシヒカリパワーで、身体に元気がみなぎっていた。気分もよくなった。

川沿いを走っていると、僕の生まれ故郷である「愛媛県森松町の河川敷」を思い出して、ホッとした。

原風景というやつかもしれない。

しばらくすると、雲行きが怪しくなってきた。

不安になる。

「あぁ、今夜の目的地がホテルなら、どれだけ天国のような気分を味わえるんだろう…」と思いながら、キャンプ場へ向かう。

お金がないので仕方がない。

新潟県には綺麗な青色の信号機が多かった

公園のベンチに座る。心が少し落ち着いた。

自転車に乗っているときでも、歩いているときでも、目が合って、その場に二人だけで、狭い空間だと挨拶をする。返ってくるかは半々。

今回の自転車旅で大量に挨拶をしているので、反応がないことにも慣れてきた。まぁ、とはいっても、やっぱりちょっとガックリくるけど…。

そして、雨が降り始めた。

自転車旅で一番心細くなるのは、夕方だ。

夕暮れのオレンジ色の光に包まれると、帰る場所を必死で求めている自分に気が付く。泣きたい気持ちになる。

でも、この日は雨が降っていたので、オレンジ色の光は現れずに雨雲の灰色だけだった。

そのおかげで、心細い気持ちにあまりならなかった。

キャンプ場に行く道の途中にあるスーパーに入る。

店内は明るいし、壁やモノに囲まれた空間にホッとした。半額の惣菜を、他の買い物客に混じって選んでいると安心感を感じた。

店を出たあとのキャンプ場までの道は、夜の道になっていて、怖かった。

キャンプ場に着いた。

小さなキャンプ場なので「誰もいないかな」と思っていたら、すでに3つテントが張られていた。

静かな空間だった。

山のふもとのキャンプ場に、焚火のパチパチという音が静かに響き渡っている。調理器具のコッヘルの中の食べ物を、誰かが木製のスプーンか何かでこすり出している。その優しい金属音が、心地いい。

ウシガエルの鳴く声がBGMとしてあたりに広がっている。なんの生物なのか分からない面白い鳴き声が定期的に聞こえて、隣のテントの人が笑っている。

安心感があった。

テントを広げて、中に入る。

なんなのだろう、この心地よさは。

ものすごい安心感に包まれながら、豪華な晩ごはんをほおばった。

飲み物×3294円
バナナ148円
おにぎり550円
晩ご飯1405円
キャンプ場無料
合計2397円
朝ご飯は昨日の残りを食べた。
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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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