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【テアラロア Day10】ニュージーランドには熊と蛇がいないというけれど

もくじ

一人で歩く

みんなが朝の支度をしている音で目が覚めた。

僕以外みんな起きて支度をしている。出発する人を見送り、今日も僕は最後の一人になった。

昨日はベリーと一緒に出発したけど、今日はベリーがいない。

実は、ベリーはハットに食料を送っていたんだけど、届いていなかった。なので、街のホテルに泊まり、スーパーで食料を買うことになった。

ホテルの予約を電話でとると、ホテルの人がハットの近くまで迎えにきてくれるということだったのでベリーは待ち合わせ場所に向かった。

そして、向かった5分後に食料がハットに届いた。

ベリーはそのままホテルに泊まった。

一夜明けて、ベリーはホテルの送迎でトレイルまで送ってもらい、そして僕と合流した。

一緒に歩き始めたけど、僕はいつもベリーに助けてもらってばかりいて、自分の力でテアラロアを歩いている実感がもてなかった。

そこで、ベリーに「僕は写真をゆっくり撮ろうと思うから、先に行っていいよ」と伝えた。

すると、ベリーも「うん、それぞれのペースで歩こう。ロングトレイルで誰かと一緒に歩くとき、早く歩く人と歩くと怪我の元だし、遅く歩く人と歩くとフラストレーションがたまるから、それが正解だよ」

「結局、今夜の宿でまた合流するしね。」

といい、お互いに自分のペースで歩くことにした。

装備がどんどん壊れてゆく

広大なニュージーランドを一人で歩く。

広い景色の中のちっぽけな自分を想像すると、心細さと興奮が僕を襲う。

相変わらず、ナチュラルで、わかりにくいテアラロアの道を迷いながら歩いた。

そして、小さな川を靴を濡らさずに渡るために、二本のストックを支えにしてジャンプしたときだった。

ポキッ!

…ストックが折れた。

登山を始めて二年間ずっと日本で使っていた相棒だ。これでストックが一本だけになってしまった。

そして、次の大きな街のアウトドア用品店で買うものが、また一つ増えた。

ザックと、旅の後半で使うシューズ。予備の浄水器に補修用のテントポール、そしてストックだ。

ちなみに、ニュージーランドのアウトドア用品は、日本の価格の2、3倍するという。

合計でいくらになるのか、考えただけで恐ろしいので考えないことにした。

恐ろしい動物

この日のメインは牧場歩きだった。

歩いていると、黒くて大きな牛に集団で威嚇された。めちゃくちゃ怖かったけど、柵でバリケードされていたので大丈夫だった。

人は「あぁ、牛ね。熊や蛇じゃないし大丈夫だよ」というかもしれないけれど、実際にあの大きな体と太い骨格、そして野太い声をもつ牛が目の前に現れたら、ものすごく怖いと思う。

でも牛のテリトリーの中を歩くことはなく、いてもバリケードがあるので「あぁ、なるほど。そこはきっちり分けられているんだ」と安心して羊だらけの道を歩いていた。

しかし!

道を歩いているといきなり目の前に現れた。でっかい親牛と子牛が三頭、道の真ん中に座っている。

どうしようと思いながらも、立ち止まったり、キョロキョロすると舐められるかもと思い、平静を装いながら歩く。

牛に向かって歩く。どんどん牛との距離が近くなる。でも、もし牛が突進してきたらどうしたらいいかわからない。

どうしよう。

サングラスをかけていてよかった。ビビっている目が相手には見えないから。

そして近づくと、子牛三頭は逃げていったけど、巨大な親牛は仁王立ちでこちらをじっと見ている。

そして、周りにいる牛たちも威嚇の声を僕に浴びせてくる。

やばい。

敵意がないことを示すために、牛の方を見ずにひょうひょうと歩いた。牧場の道のきつい斜面を上がり、少し迂回して、巨大な牛を通り過ぎる。

目の端で牛を見ていると、牛もこちらをじっと見て警戒しているのがわかる。

もしかしたら牛に突進を喰らい、脚を骨折し、この旅はここで終わるかもしれない。

だけど、そのまま無視して歩くと、何も起こらずに終わった。

そして終わったと思って顔を上げたら、まだまだたくさんの牛がいた!

怖すぎる!!

動揺が抑えられない!

怖くて、独り言が出始めた。ただ、立ち止まったらおしまいのような気がして、なるべくひょうひょうと歩き続けた。

牛たちの威嚇の声が止まらない。四方八方から罵声を浴びせられているような気分だった。

それでも攻撃的なオーラを出さないようにしながら、牛が一番少ないコースを狙って歩いた。

そして、無事抜け出せた。

ここには平和な羊しかいない。

よかった…。

天然のウール

そして、そのあとは今夜のキャンプ場に向けて歩く。

キャンプ場に着くと、ベリーとベルとドネック、そして昨日出会ったニックというアメリカ人が「お疲れさま〜!」と迎えてくれた。

「牛がめちゃくちゃ怖かった!」というと、激しく賛同してくれた。牛はみんなにとっても今日のハイライトだったようだ。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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