街とは違い、人が住むようにアレンジされていない自然の中だからこそ、どんなことが起こっても不思議ではありません。実際に山に登り、個人的にどんな危険を感じたのか綴っていきます。
5つの危険
道迷い
これは、はじめて山に登ったときから今も、ずっと感じ続けている危険です。
はじめて山に登った時に感じたことですが、山は地図では小さく見えても実際に中に入ると、驚くほど広大です。「簡単に迷えてしまうな…」とゾッとしたのを覚えています。
なので、GPSアプリである「YAMAP」と紙地図・コンパスは必ず携帯しています。YAMAPというアプリが、いま自分が山の中のどこにいるのかや、進むべき方角を教えてくれます。とても便利なアプリなので、これがなかったら、僕は登山を始めることすらできなかったと思います。
でも逆にいうと、このアプリが使えなくなったら、とんでもなく危険な状況におちいるということです。そこで、二つの方法が考えられます。
一つは、最悪スマホが使えなくなっても、なんとか下山できるように紙地図の読み方やコンパスの使い方を勉強しておく、登る前から地図を読んで地形を把握したり、山の中や周辺の特徴的なモノの位置を把握しておく、などがあります。
そしてもう一つは、アプリが使えなくなる状況(充電切れや、スマホ本体の故障や紛失)に備えて、モバイルバッテリーを持っていく、モバイルバッテリーとスマホをつなぐケーブルの故障に備えて予備のケーブルを持っていく、スマホを二つ持っていく、などです。
あまり道が整備されていないマイナーな山は標識などがなく、どの地点も同じような景色に見えることがよくあります。しかも、歩き続けて疲れている状態なら、なおさら簡単に道を見失います。来た道を引き返すことができなくなります。
僕もよく経験しますが、登るときは気合が入っているので道に迷うことは少ないです。地形的にも面積の少ない上方向を目指せばいいので迷いにくいです。ですが、登頂して「やったー!」と緊張の糸が切れて、気が抜けた下山中に分岐を間違えて遭難するというのは、よく聞く話です。下りは、下れば下るほど歩ける山の面積が増えるので、物理的にも迷いやすくなります。
道迷いをしてしまう要因はたくさんあります。
「予定より時間が押してしまい、日没が近くて焦っている」
「はじめてイノシシに威嚇されて胸がドキドキしている」
「下山後に何を食べようか、次はどの山に登ろうか。下山が完了する前から、そんなことばかり考えてしまっている」
「アブにつきまとわれて道に集中できない」
「雨や霧で視界が悪く、別世界のようになっている」
「下山後の用事に間に合うように、急いでいる」
道迷いをしてしまうと、平常心を失い、冷静な判断ができなくなり、さらなる危険へと転がり落ちてしまうこともあります。焦りは、転倒による怪我、滑落の可能性を上げます。そして最終的に遭難へとつながります。
「道迷い遭難」に対する4つの対策
とにかく時間にゆとりを持たせる
危険がなぜ起こるのか、それは冷静な判断ができなくなっているからです。
なぜ冷静な判断ができなくなっているのか、それは時間にゆとりがないからです。
冬の17時に道に迷うのと、夏の10時に道に迷うのでは、焦り方がまったく違います。危険におちいったときに、時間に余裕があり、自分の心がある程度コントロールできていれば、最善の行動を選択しやすくなります。
時間にゆとりを持たせるために必要なのが、事前の登山計画と早出早着の意識です。
まず、登る前に地図や本、インターネットなどで山の情報を集めます。
どれくらいの時間で山頂に辿り着けるのか、総距離はどのくらいか、累積標高差はどのくらいか、水場はあるか、エスケープルート(予定していた道をなんらかの理由で通れなくなった時に使う、別の道)はあるか、危険個所はどこか、登山道の状態はどうか、避難小屋はあるか、登山口に駐車場やトイレはあるか、登山口までどのくらいで到着できるか、日の入り日の出の時刻は何時か…、などなど。そこから、出発時刻を逆算します。
そして、実際に地図を見ながら、歩くルートをシュミレーションします。
「登山口はこの神社の近くにあって、ここを歩いているときは右手に沢があって、ここはかなりの急登で、ここはずっと谷を登る感じで、ここから尾根にのって、ここからは尾根上をひたすら山頂まで歩く…」といった感じです。
本やインターネットの情報で注意しなければならないことがあります。
本はインターネットよりも正確なことが書かれていますが、情報が古いことがあります。「一週間前に台風が来たけど、今の登山道の状況はどうだろう」と思っても、それは本には書かれていません。
そこで、インターネットの出番になるわけですが、「このルート思ったより楽勝でした」「道は全然歩けるレベルです」というような主観的なことが書かれていることがあります。その人は登山上級者で、その人にとっては「楽勝」だったのかもしれません。
インターネットで情報を見る場合は、たくさんの情報を見比べて、信ぴょう性が高く、客観的な事柄を見るように心がけています。
そして、絶対に忘れてはならないのが、登山届です。
特に、単独登山をする人は必須です。これを出してないと、「脚を怪我して動けなくなった」「スマホの電波がない」「人が通らないようなマイナールートだから、人が来る見込みがない」となったときに、どれだけ恐ろしい思いを体験するかは想像できますよね。
もちろん、単独登山者だけではなく、全ての登山者に必須のものです。登山届を出した後は、家族や友人に、山に行くことを伝えてください。登る日付や山の名前、下山予定時刻、できれば通る予定のルートなど詳細なことも。
もし下山予定時刻を過ぎても連絡がとれないようなら、必要に応じて、家族や友人に警察に連絡してもらうようにお願いしておきます。
ちなみに、登山届はインターネットで簡単に出せるようになっています。
提出する内容はおおまかに、日付、山の名前、実際に通るルート、装備品、食料や水分、緊急連絡先、下山予定時刻などです。僕は「コンパス」というサービスを使っています。
「早出早着」は文字通り、早くに出発して早くに目的地に着くことです。
日帰り登山だと、15時までには下山完了できるように、登る山のコースタイムに合わせて、出発します。例えば、日没の1時間前に下山する計画は危険です。山でアクシデントはつきものだからです。
「途中で、軽く捻挫をして歩くスピードが遅くなった」
「予定していたルートが崩れていたので、時間のかかる迂回ルートを通らなければならなくなった」
「山頂が気持ちよくて、予定よりも長くのんびりしてしまった」
「思ったよりも体調がよくなくて、歩くスピードがでない」
など、たくさん考えられます。そして、焦りは危険への可能性をグッとあげます。時間にゆとりを持たせましょう。
現在位置をこまめに確認する
とても大事です。
僕は、「こんなに確認する必要はないんじゃないか」というくらい、いちいち確認します。あまり整備されていない山では特に、です。山の中に入ると、絶対的な方向感覚を持つような天才以外の人は、方向感覚が簡単にわからなくなります。「北に進んでいると思ったら、南に進んでいた」というような話です。
現在位置の確認をせずに、違う道にどんどん進んでいった場合、気付いた時にはかなり進んでしまっていることになります。その時の「うわぁ、この距離をまた引き返すのか…」という精神的な疲れや、時間の遅れ、体力的な疲れから、来た道を引き返さずに、ショートカットできる方法はないかとショートカットしようとして険しい道を選び、転倒して怪我をしたり、余計に時間がかかったりして遭難することも考えられます。
ちなみに、登りでは現在位置を確認するたびに、後ろを振り返るようにしています。
登るときと下るときは同じ道でも景色が違います。後ろを振り返って景色を記憶することで、下山するときの目印になるし、安心感を感じられます(安心感があったとしても、現在位置は確認するようにしています)。
道迷いに気が付いたら、ショートカットせずに来た道を引き返す
繰り返しになりますが、来た道を、同じ道を引き返すという面倒や不毛さに打ち勝ってください。
ショートカットしようとして危険度が増すよりも、面倒に打ち勝って安心感を得られた方が、結果的にいいと思います。
ビバークの準備をしておく
ビバークは、「日没までに下山できずに、山の中で緊急的に一夜を過ごすこと」です。
そのための簡易テントである「ツェルト」、簡易シュラフである「エマージェンシーシート」や「エスケープヴィヴィ」、予備の水や食料、ダウンジャケットなどを用意しておきます。
用意があることで、「まぁ、最悪ビバークしたらいいか」「死ぬわけではない」と冷静さが保たれ、焦りからくる危険な選択をしにくくなります。
そして翌朝、明るくなったら、時間をたっぷり使いながら、慎重に下山をします。
僕の失敗経験談
それは、まだ登山をはじめて30回目くらいの時でした。
この日は、「平家平」というはじめての山を、登りも下りも同じ道を通る「ピストン」ではなく、行きも帰りも違う道を通る「周回ルート」で登っていました。僕にとって、はじめての周回ルートでした。
その日は日射しが厳しくて、登りの急登に予想以上に体力を消耗してしまいました。
コースの半分を終えた時点で、体力の80%を使ってしまいました。そして、コースの残り半分を歩いているときには、疲労で視界が少し白くかすんでいました。集中力もだいぶ途切れていました。
16:40頃のことでした。
次に進むべき登山道がどこにあるのか分からなくなりました。疲れて集中力も切れているので、探しているのですが、登山道が見つかりません。日没も近いので、かなり焦っていました。
スマホのGPSを頼りに道をさがしても、その時はスマホが古かったせいか、全く変な方向に案内されるので、スマホも当てになりませんでした。
幸い、その登山道にはもう一つルートがあったので、そちらの道を行きました。
その道は準推奨ルートで、推奨ルートではなかったので少し不安でした。ですが、歩きやすい道が続きます。もう少しで下山できるという場所で、それは起こりました。
一昨日の台風の影響で道がごっぞり抜け落ちており、道が崖のようになっていました。
一歩間違えれば、滑落して死んでしまうこともあり得ました。ですが、その時の僕は「一刻も早く下山したい!」と、焦りで冷静な判断ができなかったため、無理やりその場所を通過しました。運良く乗り切れましたが、あそこで死んでいてもおかしくなかったので、その時のことは振り返るたびにゾッとします。
では、どうしたら、このような危険な状況を回避できていたのか。
・早出早着ができていなかった
この日、登山口に着いたのは10時、下山したのは18時でした。ちなみに、秋です。
これは明らかに時間の余裕がありません。もし、道が分からなくなった時が14時だったら、無理して崖のような場所に突っ込まず、引き返して冷静に道を見つけていたかもしれません。一時間くらいその場で休憩して、体力と集中力の回復をはかり、冷静に道を見つけられたかもしれません。
・自分の体力に見合った山が選べていなかった
下山した時に、まだ体力に余裕のある状態が、安全な登山を行う上での理想です。この日はコースの半分で、体力がだいぶ尽きていました。
・周回ルートの難しさを考えていなかった(経験不足だった)
山頂まで歩いた道と同じ道を引き返すピストンに比べ、全てのコースが新しい周回ルートはより難易度が上がります。特に後半の体力・集中力が切れてきたころでも、新しい景色のなかを迷わずに進まないといけないため、難易度が高いといえます。
・下調べが不十分だった(経験不足だった)
台風が通過した直後の登山は初めてでした。
台風が通過した後は、草や木の枝が地面に散らばり、道が分かりにくくなります。道が抜け落ちていたのも台風の影響かもしれません。
インターネットで下調べを十分におこなっていれば、このような危険は回避できたかもしれませんし、台風のあとの山はどうなっているか分かっていれば心構えができます。
怪我
街で怪我をするのと、山で怪我をするのでは大きく違います。
街だと、病院があり、病院までの道も完璧に整備されています。車やバスが使えます。人がたくさんいるので人の助けを借りることもできます。
ここでいう怪我とは主に脚の怪我です。
捻挫や骨折などです。歩きにくく傾斜のキツい山の中で、しかも登山口まで健康な脚でも3時間かかるような場所で、怪我をしたらゾッとします。
怪我を防ぐには、ちゃんと足元をみて、丁寧に歩くことに集中することが大事です。
雨で濡れた岩や木の根は、氷と同じくらい滑ります。そして、下山は特に脚の筋肉を使います。登頂後の疲れた身体や脚で、更に筋肉を使いながら下山することになります。そして、集中力も弱くなってきているので、怪我は下山時に多いです。自分の体力に見合った山選びや、日常の体力・筋力づくりも大切になってきます。
怪我のほとんどは、転倒によって起こるといわれています。
これは僕の経験ですが、下山をしていた時のことでした。その時は、だいぶ疲れていました。足元にそこそこ大きな木の枝が落ちていました。引っかからないように脚をヒョイと上げて通り過ぎたのですが、枝に引っかかってこけました。自分の中では、引っかからないように十分な高さ脚を上げたつもりでしたが、身体が疲れていたので、自分が思うよりも実際は上がっていなかったようです。
ところで、諸説ありますが、捻挫対策としてハイカットの靴を履くという方法もあります。
足首までサポートしてくれるので、だいぶ安心感があります。僕もハイカットを使っていますが、そのおかげなのか、今のところ怪我をしたことはありません。ただ、ローカットの靴で登山をした経験がないので、比較はできません。
そして、もし捻挫をしたときのために、テーピングテープを持っていってください。
滑落
登山の危険といえば、これが真っ先に思い浮かぶのではないでしょうか。
僕は愛媛県に住んでいるため、岩稜地帯の滑落のことはわかりません。僕が登っている2000m以下の山で、滑落の危険がありそうな場所を通るときは、ただただ慎重に進むようにしています。これは、誰でもそうですよね。
なので、慎重になれないような心理状態をつくらないということが大事なのではないかと思います。時間がなくて焦っているとか、疲れすぎて集中できないなどです。
野生生物
山の中には、たくさんの生物がいます。
その中でも特に要注意なのが、毒を持つ生物と、力の強い生物です。
毒蛇やスズメバチ、熊などですね。熊には出会ったことがないので、ここでは省きます。まず、僕の経験からいうと、野生生物がわざわざ向こうから襲い掛かってくるということは、ほとんどないと思います。僕の登山回数は100回程度で、その少ない経験上でのことですが、襲われたことは一度もありません。
大声を出したり、刺激しないようにしましょう。
ですが、スズメバチに襲われたら大変です。
僕は安心して登山をするためにポイズンリムーバーを、いつも持って行っています。
スズメバチに関してよく言われているのが、黒っぽい服を着ないこと、香水などの刺激の強いものを身につけないこと、巣には決して近づかないこと、近づいてきても手で振り払ったり叩き潰したりしない(警戒フェロモンが噴出されてたくさんのスズメバチによる攻撃が始まる)、などです。
ただ僕は襲われた経験がないので、詳しいことは語れません。詳細は、他のサイトや本で調べてみてください。
雨
雨の日の登山は危険です。
土砂崩れや沢の氾濫もあきらかに危険ですが、雨で地面が濡れていると、途端に難易度が上がります。
地面が滑るんです。
坂は坂でも急登になると、本当に怖いです。登りも怖いですが、下りは本当に滑落の危険を常に感じながら歩くことになります。岩や木の根も、氷のように滑ります。
なので雨の日の登山は、滑落や転倒による怪我のリスクも一気に上がります。
そして、視界が悪くなることも、雨の日の怖いところです。足元がよく見えなくて、岩や木の根で滑ったり、引っかかったりして転倒し、怪我をします。周りの景色があまり把握できなくて、道迷いをし、遭難します。
あと、個人的に怖いのが、恐怖で「気持ちが後ろ向きになる」ということです。
山では整った精神状態でいられるようにするべきです。誤った選択をしないためです。
雨が降ると、視界が悪くなり、景色も暗くなります。大自然のパワーを見せつけられているかのような、怖い雰囲気が漂います。見通しがきかない不安な状態で、かつ、足元も悪いとなると、どうしても人は平常心を保ちづらくなると思います。
単独登山
単独登山は、危険です。
想像できるかと思いますが、何かアクシデントが起きたときに全て一人で対処しなければなりません。電波の届かない山の中で足をくじいて動けないとき、もう一人仲間がいれば救助を呼びに行ってくれます。
初心者はまず、経験者と一緒に行くことをおススメします。
ココヘリ
「ココヘリ」というサービスがあります。
単独登山がメインの方には、特に有難いお守りになります。
入会すると小型の発信機がもらえます。いざ、山の中で身動きがとれなくなって救助要請をしたときに、自分の居場所がピンポイントで相手に伝わるという、すぐれモノです。
登山保険
遭難した場合、捜索や救助にかかる費用は莫大です。
救助要請をした方がいい場面で、捜索費用のことを考え無理をして、自力で何とかしようとし、更なる窮地におちいることもあるかもしれません。
保険という、登山をする上での「精神安定剤」を用意しておくことをおススメします。山に登るときは、身体的にも心理的にも不安材料が少ない方が危険リスクは少なくなると思います。
ここでは、ココヘリとセットになっているJIROという保険を紹介します。ちなみに、僕はここに入っています。
おわりに
ここまで、5つの危険を説明してきました。
ですが、他にも「ハンガーノック」「脱水症状」「高山病」「低体温症」「熱中症」「落雷」「雪崩」…など、たくさんあります。まだ経験したことがないので、ここでは紹介できませんでした。
ここで紹介した「道迷い」や「怪我」や「滑落」は全て、時間不足や体力不足、準備不足、経験・知識不足などにより冷静さを欠いたために起こるという点で共通しています。そして、「遭難」は主にこれら「道迷い」「怪我」「滑落」によって引き起こされます。
リスクをゼロにすることはできませんが、「早出早着を心がける」「日ごろから体力づくりをしておく」「しっかり下調べをしておく」「登山届は必ず提出する」「本やインターネットなどでしっかり知識を身につける」「保険に入る」、そして「経験をたくさん積む」という対策をしっかりすれば、リスクを大幅に少なくすることができます。
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