愛媛県西条市にすごい滝があるらしい。
正直なところ、滝には興味がないけども他にいくところもないし、原付を走らせた。
登山口を出発してからは、林道歩きが続く。
そして、道にだんだん雪が混ざり始めた。
一年ぶりの雪山にテンションがあがり、雪と氷でいろいろと遊んでみる。
そして、氷の芸術もあちらこちらにある。
しばらく進むと、道が本格的になってきた。
道に大きな岩がたくさんある。その上に雪がこんもり乗っかっているおかげで、どこに足をおけばいいのか分からない。踏み抜かないように、慎重に歩く。
そして、川を渡らないといけない場所に来た。
なるべく浅くて、なるべく川幅の狭い渡渉点を探す。
12月の川は凍るように冷たい。絶対に足を濡らしたくなかったので、辺りをウロウロしてベストな場所を見つけた。
反対側に渡るには、最後にジャンプしないといけない。でも、足をつく岩の表面がところどころ凍っている。
「大丈夫かな…」
しばらく考えたけど、ここがベストな渡渉点だと思いジャンプした。無事、反対側に着いた!
そのまま行ったらよかったのに、着地した岩のうえで後ろを振り返り「帰りはどう渡ろうかな…」と考えていたら、右足がツルっと滑って川にドボン!
慌てて川から這い出たけど、右足が靴の中まで完全に濡れてしまった。冷たい!
ときには勢いも大切だ。慎重すぎるのも良くないときがある…。
とにかく右足が冷たくて、というより痛くて、なんとかしないといけない。
靴下を絞ろうと、岩にこんもり乗っている雪を手で振り払い座る。防水の手袋をしていなかったので、この時に手袋が濡れて、手も痛くなる。ついでに座ったときにお尻も濡れて痛くなったけど、お尻はいったん無視。
凍った靴ひもを力づくでほどいて、靴下を取り出し、しぼる。
素足を空中に出すと本当に足が痛い。早く靴下を履かないと。五本指ソックスがやりづらい!そして、手も痛い。
「ふぅ…」
ひと段落ついた。これで大丈夫だ、と歩き出す。
「大丈夫なんだろうか」
映画でよく見るような凍傷になったりしないんだろうか。
まあ、ここは四国だし、まだ12月だし、大丈夫だろう。
とりあえず、身体を動かしながら何か食べようと、キャンディーやクッキーを取り出す。
ちなみに手袋をつけると余計に手が痛いので、手袋は外した。
つけても、外しても、手が痛い。手がだいぶ赤くなってきた。息を吹きかけたり、ポケットに交互に手を入れたりして、手の安全を図る。手は赤いし、足も痛いけど、この身体の痛みを引き受ける感じが、気持ちいい。
滝までもう少しのところで、クモが歩いていた。
そして、滝の気配がする。
いよいよか…。
感動したかったので、ここからは下だけを見て歩く。歩きながら滝が近づいているのを感じる。一歩一歩、歩き続け、立ちどまる。
ここだ。
バッと顔をあげる。
「すごい!!!」
思わず声が出る。すごい…
うわぁ…と顔を上げ、口があく。360°見渡したあと、しばらくそのままフリーズした。
恐る恐る、滝の真下にむかって歩く。
すごい…と感動していた、その瞬間、ズボっと足元の氷が抜けた。右足が、足元の氷の下にある滝つぼに入った。「やばいやばい!!」とすぐに逃げ去った。ちょうど滝つぼの浅いところだったから助かった…。
その後は、すこし距離をとり滝を眺め続ける。
右足が膝まで、更に濡れたけど、もういいやと思った。
しばらく眺めて引き返すときに、滝の下にザックを置いた写真を撮りたいと思った。なので、また滝の下に向かう。今度はあまり近づきすぎないようにした。
滝の下にザックを置いた瞬間だった。
近くで花火が打ちあがったかのような、ものすごい轟音が鳴り響いた。
この静かな山に似合わない大音量にビックリして滝を見上げた。滝の上部にある氷の塊が落下している。その塊がさらに別の氷の塊にぶつかり、更に大量の巨大な氷が落ちてくる。その連鎖がとまらない。ものすごい量と大きさの氷の塊に、恐怖し、すぐにその場から走って逃げた。
もともと、十分に安全な距離を保てていたので大丈夫だった。だけどもし、最初に滝つぼにハマらなかったら、もっと奥まで行っていたかもしれない…。
そのあとは、余裕なんて無かった。
「自然は恐ろしい!ここはやばい!」
急いで滝から離れ、元の真っ白な道に戻った。僕の頭も真っ白だった。恐ろしかった。
「自然には勝てない」という言葉をよく聞くけど、本当にそうだと思った。とにかく、恐怖からくる動揺で帰りの道を踏み外さないように、集中した。
とにかく集中して歩く。
あまりに集中していたので「あっ、いま頭の中がかなり無になっていたな」と気付くも、「いかん、いかん。余計なことを考え出した。集中せねば」と思い直すことの繰り返しだった。
そして、林道に戻った。
「ふぅ…」
ここなら、気を抜ける。
気持ちの帯を緩めると、じわーっと温かいものが胸から流れ出た。
「生きてるなぁ」
無事、登山口に戻れた。
駐車場の原付を見て、日常生活の素晴らしさをおもった。
恋しい。日常が恋しい。原付での帰り道はとても寒かった。手袋をつけても手が痛いし、たくさん着込んでも寒かった。ただ、これから戻れる日常のことを思えば、耐えられる。日常生活が待っている。心は輝いていた。
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