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【ロングライド ♯2】広島・山口・福岡・大分の海岸線を走る450kmの自転車旅

もくじ

2日目

明け方5時に目が覚めてしまった。

もう一度寝ようにも眠れない。仕方がないので支度を始める。

このホテルはありがたいことに、バイキングの朝食がついていた。6時のオープン時間に合わせて一階におりる。

疲れと寝不足で、少し吐き気がする。

でも、いざ食べ物を口に運んでみると、パクパク食べられた。糖分たっぷりのジュースを飲むと、身体が楽になった。

外はまだ暗い

そして、出発する。

岩国といえば、「錦帯橋きんたいきょう」だ。

観光地は興味が湧かないタイプの人間だけど、錦帯橋と「下関しものせき海峡トンネル」は一度見てみたいなと思っていたので、錦帯橋へ向かう。

そして、到着した!

早朝だから空気が澄んでいる。

観光客は数人いた。そして地元の小学生が通学で錦帯橋を渡っていた。観光地だけど「地元の人からしたら、ただの生活の場だよな」と思った。

そして、また移動を始める。

今回の旅の計画は、大体でしか決めてなかった。

地図を広げて、ここから旅の終着点までの距離を計算してみると、このままのペースでは絶対に目的地に辿り着けないことに気がついた。

一日目を岩国で終えたことが大きな誤算だった。だから、今日はなるべく長い距離を走らないといけない。

今日、どこまでいけるのか見当がつかないまま、とりあえず進んだ。

でも、ただ距離を稼ぐためにひたすら漕ぐのも「なんだかもったいないな」と思い、寄り道もした。

そして、また漕ぐ。

走っていると、「室積むろづみ」という小さな港町に着いた。そろそろお昼ご飯を食べたかったので、自転車を押しながらウロウロする。

そして「宮本」というご飯屋さんで「かけうどん」を頼む。

魚の出汁が利いていて、麺もコシがあって美味しい!大事な栄養であるスープも残さず平らげる。これでまた、しばらく走れそう。

店を出てしばらく走ると、「日本一周 112days from 東京」と書かれたボードを荷台に取り付けたロードバイクが通り過ぎた。若い男の人だった。

「日本一周かぁ」

そんなに走っていたら、どんな心境になるんだろうなぁ。

ところで、この旅の間にたくさんのリサイクルショップを見てきた。「そうか、それだけ多くの市を走っているんだな」と思った。

そして、ふと、その内の一件に入ってみた。

道の駅や公園もそうだけど、長い自転車旅の途中でお店に入るのは、精神的にいいリフレッシュになる。しかも、街で暮らしていたとき以上にお店に入るのが楽しく感じる。

来年、ニュージーランドを歩いて縦断する計画を立てているので、そのための装備を安く揃えられるかもしれないと期待を込めて入った。だけど、この店舗では見つけられなかった。

また、走る。

道を走っているときだった。

三人組の若い女の人が横一列になって歩いていた。

自転車が通れるスペースを空けてもらって、通るときに「すみません」と声をかけたその瞬間、その三人組がドッと笑い出した。嫌な感じの笑いだった。

僕の声が小さかったり、変なトーンだったのかもしれない。

そのあとも走り続けていたけど、そのことがずっと気になっていた。

僕は中学生のころ、クラスの女子三人組に「気持ち悪い」と頻繁にいわれていたので、そのときの嫌な感情を思い出してしまった。

「あの時みたいに、気持ち悪いと思われたのだろうか」「僕は、やっぱりコミュニケーションの仕方が変なのだろうか」「どうせ、僕は誰からも好かれない」と思考が悪い方向にどんどん発展していき、ドヨーンとした気持ちでペダルを漕いでいた。

気持ちが戻らなかったので、パートナーにそのことを報告して慰めてもらった。そして、またリサイクルショップを見つけた。

「入るか…」

うつむき気味で店内を歩き、アウトドアコーナーへ向かう。ハンガーにかかった服をガチャガチャとスライドしていると「あっ」あった。

まさに、探し続けていた商品だった。

定価4000円の商品が、500円で買えた。「嫌なことがあれば、良いこともあるのかな」と少し気分が明るくなった。

そして落ちついた心で、また走る。

ここまで長い距離を走ったけれど、旅の終着点まで辿り着くには、まだまだ走らないといけなかった。

そしてこの日は、10月の終わりなのに日差しが厳しくて、心がジリジリと消耗してゆく。

「今日こそはテント泊をしよう」と思っていたんだけど、明日以降も長距離を走らないと旅が達成できないと考えて、しっかりと睡眠がとれるホテルを選択した。

ホテルを予約してお金は減ったものの「今日はそのホテルまでただ頑張って漕げばいい」と気持ちの焦点が合い、不安がなくなった。

そして「防府ほうふ」という場所に着いた。

陽はだいぶ傾いている。今日のホテルまであと50kmだった。

走っていると「防府天満宮 右折600m」という看板が見えた。気持ちが急いでいたので、通り過ぎかけたけど「せっかく防府にいるんだ。それに、たったの600mじゃないか」と思い、向かった。

この選択が、正解だった。

防府天満宮に行く前に、その横にある観光案内所という名の「サイクルステーション」に入った。

空気入れを貸してもらえるみたいなので、貸してもらう。

…だけど、使い方がわからない。

あれこれやってみるも、やっぱり分からないので、サイクルステーションの人に教えてもらいに自転車と一緒に店内に入った。

サイクルステーションには女性が二人いた。一人はものすごくフレンドリーな方で、もう一人は中立的な表情をした方だった。

フレンドリーな方はおそらく自転車の素人のようで、もう一人の方に助けを求めにいった。

経験者であろうもう一人の方が奥から出てきたので「空気入れの使い方」を尋ねると、少しあっけにとられたような表情で教えてくれた。

すると、使えた。

家で使っている空気入れと全く同じように使ったら、使えた。「なんで、わからなかったんだろう」と僕自身もあっけにとられた。

疲れていたし、空気入れのデザインがいつも使っているのと違っていたので、混乱してしまったのかもしれない。

そのあと三人でいろいろと話をした。

「どこから来たのか」「今日はどこまで行くのか」「旅の目的地は」「何日で行くのか」経験者の方は興味津々で尋ねてくれた。

「今日は、ここからもう少し離れた宇部うべというところに行く」ことを話し、「明日は宇部から、大分の豊後高田ぶんごたかだまで行く」ことを話した。

すると、経験者の方は「宇部から豊後高田まで行くんですか…」と驚いた表情をした。このとき、僕の頭に暗雲が立ち込めた。

僕は距離を正確に測るアプリを持っておらず、一般的な地図アプリでなんとなくの距離を測って「行けるだろう」と判断していた。

だけど、経験者と思われる方の驚いた表情を見ていると「思っているよりも長距離なのだろうか」「道が悪くて難しいのだろうか」「果たして僕にやれるのだろうか…」と不安を感じずにはいられなかった。しかも、このとき僕はヒザ痛を発症していた。

でも「まずは今日の目的地に辿り着かないことには、なにも始まらない」と気持ちを切り替えた。

そのあとも、二人ともたくさん話をしてくれて、パワーをもらった。中立的な表情をしていた経験者の方は、最後には、こっちがビックリするくらいの満面の笑みでエネルギーが湧いてくるような応援をくれた。

ものすごくフレンドリーな方も、最後までものすごくフレンドリーで「これから夜になりますけど、こういうところにまた寄って休んでくださいね」と気遣いをくれた。

僕は、人と話すとエネルギーが消耗していくタイプだけど、身体も心も疲れて、心細くて不安な状況だと「こんな僕でも、人と話すとパワーがもらえるんだ」ということに気がついた。

「みんなの声援に力をもらいました」というマラソンランナーの台詞せりふが理解できた瞬間だった。

そして、防府天満宮にいった。

なんとなく写真を撮ったらいけないかなと思って撮れなかった

さあ、今日のホテルが待っている「宇部」にむかって、再出発する。

夕日が大きい
山口県山口市!
おもしろい山の形
陽が暮れると、気持ちが焦ってしまう
綺麗で、思わず足をとめた
道路を挟んで反対側のコンビニのトイレを使いたくて、渡れるタイミングを待っていた。意外と車が途切れずモジモジしていた

夜が来た。

心細くて、お腹も空いている。

どこかに個人店はないかと探して、中華そば「一久」を見つけた。メニューを見てみると、値段のところが全て隠されていた。これは、面白そう。

いちおう、桁はちゃんとチェックした。

ここが、大アタリだった。

ものすごく美味い!

ラーメンとチャーハンの具材すべてが疲れた身体に染み渡る。美味しかったので、料理を口に運ぶ手がとまらず、何度かむせた。

ラーメンは、こってり系

そして、また走る。

ホテルまであと20km。

走っていると、この中華そば屋さんを何件か見かけた。どうやら、「宇部ラーメン」というジャンルで地元では有名らしい。

チェーン展開をしているようなので、メニュー表の価格が隠されていたのは、価格改定をしたからかもしれない。

そして道に迷いながらも、なんとかホテルに到着した。

「館内にロードバイクを置かせてもらえるか」尋ねると、「スペースがないので、できない」ということで焦った。

「部屋に持ち込むのはどうか」尋ねると、「専用の袋に入れた状態なら大丈夫」ということだった。

…あぁ、よかった。

自転車の分解はあまりしたことがないので、30分以上かかった。

輪行袋にうまく入らなくて、何度もやり直した

そして部屋に入る。

一安心…。

メーターを見てみると、155kmと表示されていた。ロードバイク人生のなかで最長の距離だった。

「おぉ、すごい…」

しみじみとした気持ちに浸りたかったけど、時刻は22時。

明日は6時起きだから、すぐに寝ないといけない。この寝るまでの束の間の時間が、たまらなく愛おしかった。

「このまましばらく、ぼーっと起きていたいな」と思った。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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