【国際恋愛 ♯3】フィリピン人パートナーの義両親が日本に過剰適応する

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ご両親、日本に過剰適応する

二週間ほど、僕は栃木を離れ、故郷の愛媛に帰っていた。

そしてまた、栃木に戻ってきたときに、ご両親の変化に気が付いた。

二人とも、外で話すときに、小声で話すようになっていた。ものすごく静かになっている。

パートナーの話によると、僕が栃木にいない間に、YouTubeで「日本でしてもいいこと&してはいけないこと」の動画をみて勉強したらしい。

いつも元気よく腹式呼吸で話す二人が、小声で話しているのを見ていた。静かに話すご両親を見ていると、いままでの生気に満ちあふれたエネルギーが、ごっそり奪われたような気がして、複雑な気持ちにもなった。

ただ、そのぶん周りの目を気にしなくても済むとホッとした気持ちもある。

そもそも、僕は田舎で育ったので、日本では、外での声の大きさについてマナーがあるだなんて知らなかったし、意識してこなかった。

ただ、外国人パートナーと生活するようになってからは、パートナーが「日本のマナーや暗黙の了解」を勉強していたので、それに合わせて僕も意識するようになった。

でも、日本人の友人と外で話すときは、勢い余って大声で笑うときもあるし、声が大きくなるときもある。それはダメなことだったんだろうか…。

「日本のマナーや暗黙の了解」については、日本人の僕でも、未だによくわからないことがある。

ご両親の過剰適応の話に戻ろうと思う。

二人とも、家にいるときは足音を立てないように、そろそろ歩いている。ベランダの引き戸を開け閉めするときは、かなりゆっくり戸を動かしている。玄関のドアを閉めるときも、ずっとドアノブに手をかけて、ゆっくりゆっくり音が出ないように、振動があらわれないように、閉めている。

それを見ながら、「いや、それくらいは大丈夫ですよ」と言おうか言わまいか悩んで、言わなかった。

外国に住むとその国の「普通」が本当にわからないから、ご両親がそんなふうになってしまうのも理解できた。言えば、もっと混乱させてしまうかもしれない。

ちなみに、たぶんどの国も、基本的な姿勢があると思う。

例えば日本だったら「静かにしないといけない」という基本姿勢があると思う。だけど、それはいつも守られるわけじゃなくて、例外がある。

日本人は静かなものを好むのに、祭りのときは急にうるさくなる。こっちの場所ではみんな静かにしているのに、あっちの場所ではみんなにぎやかに喋っている。こういうった「例外」が日常生活のいろんなところに散りばめられていて、その「例外」がどこにあるのかは長く住んでいる人じゃないとわからない。

「日本ではこうだから、こういう場合は、こうしないといけない」と理論的に勉強しても、例外があるから、それで混乱する人が多いと思う。

こういうことは、どんな国でもあるんじゃないかと思う。

ここで言いたいのは、それくらい、ある国の「普通」を理解することは難しいということだ。だから僕は、ご両親になにも言わなかった。

掃除機を何時からかけてもいいか問題

いつもは、ご両親が掃除機をかけてくれるんだけど、今日はやることがなかったので僕がかけることにした。

朝の10時だ。

すると、お義父さんのサニーさんが「掃除機をかけても大丈夫なの?」と少し焦った様子で、そろそろ歩きながら僕のほうに近づいてきた。

どうやら、近所迷惑にならないように「下の階の人の車が駐車場にあるとき&午前中」は掃除機をかけないようにしているらしい。

そこで「下の階の人が部屋にいても、午前10時だったら、大丈夫ですよ。早朝だったらやめたほうがいいですけど…」「早朝…例えば、5時とか6時とか、7時も…かな?」と答えた。

そして二人とも「あぁ~、なるほど!」と納得した。

でも、ベランダに置いてある洗濯機を使う場合は、時間を気にしたほうがいいけど、掃除機については考えたことがなかった。そして「掃除機ってどうなんだろう」と自問自答が始まった。

「掃除機って、そんなに隣や下の階の人に聞こえるほどうるさいのかな?」

「コンパクトな掃除機だから、おそらく音は聞こえないだろうけど、早朝のシンとした空気の中だと、音が響くんだろうか」

「音が響いて聞こえるとしたら、早朝はやめたほうがいいか」「でも、早朝って何時のことだろう」「8時からは掃除機をかけていいといったけど、本当にそうなんだろうか」

そもそも、そんなことを意識せずに生活してきたけど、ご両親に伝えるために言葉にしようとすると、うまくできない。

せっかくご両親が気を遣って生活してくれているのに、僕が適当なことを言って、近所から苦情が来るのが嫌だったので「考えていると自信がなくなってきたので、やっぱり、二人がやっていたことをそのまま続けてください。それがベストだと思います!」といって逃げた。

お義父さんの小さな大冒険

僕が栃木にいない間、お義父さんは近所を散歩しまくったらしい。

ちなみにお義母さんは車いすでの移動なので、めんどくさくてあまり外に出ていない。

そしてお義父さんは散歩のついでに、八百屋さんやスーパーに行って、一人で買い物ができるようになった。

ご両親は、フィリピンの田舎に住んでいるので、スーパーに自動精算機はない。レジの人に会計をやってもらうスタイルだ。

だから、ご両親が来た最初のころに、僕とパートナーとお義父さんでスーパーにいって、自動精算機の使い方を教えた。

そしてお義父さんは一人で、はじめて入る店に入り、買い物をする。

でも、そのお店の自動精算機は言語切替ボタンがなかったらしい(おそらく見落としたんじゃないか…)。焦ったお義父さんは、「どうしよう」とその場であたふたしていた。すると、レジ係の人が来てくれて、ジェスチャーで使い方を教えてくれたようだ。

その他にも、お義父さんは一人で近所の八百屋さんにいったらしい。

その八百屋さんは、僕とパートナーの行きつけのお店で、お義父さんとも二人でいったことがあるので、八百屋さんの店長さんも僕たちの存在を知っている。そしてたくさん話しかけてくれる、フレンドリーな店長さんだ。

お義父さんが一人でいったその日は、安い野菜がちょうどなかったらしい。

でも、店に入ったのに何も買わずに出るのは恥ずかしいので、「ほうれん草(180円)」と「長ネギ(180円)」とあともう一つ野菜を買ったらしい。(高い…!)

そして会計のときに、レジに入っていた店長さんがお義父さんにたくさん話しかけてくれたようだ。

でも、お義父さんは日本語も英語もわからないので、とにかく笑顔でうなずいていたようだ。帰ってきたお義父さんは、そのときの様子を、楽しそうにジェスチャーで再現してた。

料理を作るお義父さん
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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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