暗闇の出発
朝4:30にアラームの音で目が覚める。

チーズを食べ、急いで荷物をバックパックにつめる。そして、テントを出た。

なんでこんなに出発が早いのかというと、昨日エミリーと、この旅の最終地点「シップ・コーブ」で日の出を見ようと、約束したからだ。
ヘッドライトを頭につけて、テントを片付ける。そして、真っ暗な中を、ヘッドライトの光が他のテントに当たらないように、歩いてキャンプ場を抜け出た。
夜のトレイルを一人で歩く。

見えているのは、ヘッドライトで照らされた目の前だけ。
気持ちが落ち着く。
繊細な人間は、あまりいろんなものを見ない方がいいのかもしれない。闇に抱かれている気分だった。

でも、頭のなかは忙しい。
日本に帰ってからつく仕事のことを考えていた。そして、実際に仕事についてから、どんなことが起こるかを具体的にシュミレーションしていた。
シップ・コーブ
そうこうしているうちに、明るくなり始めた。
急ごうと思ったけど、急いで足を挫くかもしれないので、そのまま歩く。
そして、着いた。

このテアラロアの最終地点「シップ・コーブ」だ。
森の中の狭い景色から、ひらけた景色に一気に変わり、思わず足をとめた。
静かだ。
穏やかな海の、打ち寄せる波の音だけが、チャプチャプと聞こえる。
船着場の先端まで行き、ベンチに座る。
曇っていたので日の出はあまり見られなかったけど、景色を眺めていた。
終わった…。
テアラロアを歩き切った…。

シューイ
しばらく海辺でのんびりしていると、エミリーがやって来た。
寝坊したようだった。
そして二人で船着場のデッキに立ち、それぞれの飲み物の缶を開ける。
これから何をするかというと、自分の靴の中に飲み物を入れて、それを飲むのだ!
これは「シューイ」と呼ばれる行為で、ニュージーランドとオーストラリアで、ランナーやサイクリスト、ハイカーが大きなことを達成したときに、行うものらしい。
僕はコーラを用意していたので、思い切っていままで履いていた靴のなかに流し込む。そして、飲む!
コーラの味と、ほんのり靴の中の味がした。そして、口の中には砂利が残った。

テアラロアを終えて
このあとは、ボートとフェリーを使って、空港があるウェリントンへ向かった。

いままで頑張って歩いても時速5キロしか出せなかったのに、ボートに乗ると、歩いていないのに、かなりのスピードで移動できた。不思議な感じだった。

そしてテアラロアが終わって、一気に疲れと眠気がやってきた。
終わってみれば、あっという間だった気がする。テアラロアをスタートした日のことが二週間前のように感じる。
歩いていて、いろんなことがあったけど、すべて終わった。
終わったんだ…。

達成感のようなものは感じなかった。
テアラロアの初日と二日目の時空の間や、昨日と今日の時空の間や、二日目と昨日の時空の間にいるような、フワフワした気分だった。
だから「大きなことを成し遂げた」といえばそうだけど、それよりも、その中にあった一日一日に価値があるように感じる。
そしてオーストラリアにいるベリーに、テアラロアを歩き終えたことを報告すると、祝福の言葉と「君と歩いた日々は忘れない」とメッセージが返ってきた。
テアラロアを歩き始めたのは二ヶ月以上前なのに、その中であったいろんな出来事や仲間たちとの記憶は、思い出すだけで、一秒前の出来事のように蘇る。
涙が出た。
とりあえず今日は、もう休もう。
テアラロアは終わったんだ。
でも、これまでの習慣で、明日もまた歩いていそうな気がする。
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