【テアラロア Day53】記憶は今でもそこにある

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一人の朝

少し憂鬱だった。

朝起きて、ご飯を済ませ、川に水を汲みにいく。そして、荷物をザックに詰めて、歩き始める。

今日も一人だ。

こんなに広い大地の上を今日も一人でちびちびと歩く。

三日前のフレッシュな感覚はすっかり消え、一人で歩かないといけない心細さに気分が押されていた。

「残りはたったの450kmだ!」と意気込んでいたけれど、よく考えたらまだ450kmもある。

一人で歩くのは、気持ちがこたえる。とにかく、足を前に出し続けた。

今日も川沿いを歩く。

昨日と同じく、途中で森に入ったり出たりしながら歩く。

ただ景色はいい。でも気持ちが乗らない。

一人だからだ。

歩きながら、同じ方向に歩くハイカーと出会わないかなと、毎日期待しているのだけど、出会わない。

反対方向から来るハイカーにはたくさん出会うけれど、僕のように南から北に歩く人はかなり少数なので、出会わない。

お昼になり、途中にあったハットに立ち寄ってみた。

中には人が6人いた。

「ハイ!君たちは南へ行くの?それとも北に行くの?」と聞いてみたら、みんな僕とは反対方向の南へ向かうということだった。

でも、そのなかの二人ほど、そのあとも話をし続けてくれて、なんだか気分が温まった。

記憶を感じる

そして、そのあとは峠を登る。

久しぶりの急斜面で、息が乱れる。

お腹がグーグーと鳴っていた。日本のスーパーマーケットを想像して、その中にある食べ物や飲み物のイメージが頭に浮かび続けてやまなかった。

「チューハイ、牛丼、冷凍うどん、刺身、柿の種、白菜の漬物、スパークリングワイン…」

そして、日本にいるパートナーのことと、ベリーたちと一緒に歩いた日々を思い出していた。

思い出を力に、カラカラの太陽の下を歩き続けた。

記憶や思い出を食らいながら歩いていた。記憶は実体の残像だ。確かに、そこに「あった」ものだ。

記憶は、今はもうないのではなく、思えば、今でも目の前にある。

そして、ありありと過去の記憶が蘇り、涙が出た。思いっきり泣くと、身体に力がみなぎってきた。

ありがたや!

ちなみに、お腹がグーグー鳴っているのは、食料が若干足りないからだ。

アーサーズパスで回収したボックスに入れておいた食料は、テアラロア300km地点のクイーンズタウンで詰めたものだ。

そのときは、タンパク質も少なく粗食ばかり食べていて、そんな食材ばかりをボックスに入れていたので、この日もお腹が空いていた。

そして今日二つ目のハットが見えたので、同じ方向に歩くハイカーはいないか、中に入ってみた。

すると、人は誰もいなかったけど、代わりにツナパックが二つ置いてあった!

余分に食料を持ってきた人が、荷物を軽くするために、ハットに食料を残して歩くことがある。

「助かった!」と思いながら、二つのうちの一つを貰う。でも、しばらく考えたあと、ありがたく二つとも頂戴した!

そしてしばらく歩き、テントを張る。

木々の間から木漏れ日が射す、きれいな場所だ。

いつものように、紅茶を沸かし、ご飯をつくる。そして、ありがたいツナパックを身体の中に流し込んだ。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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