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【信越トレイル ♯1】長野と新潟の県境をゆく6泊7日の山旅日記

もくじ

1日目

この信越トレイルは、人生で二度目のロングトレイル。

そしてスタート地点の新潟県に行くには人生初めての新幹線に乗らないといけない。前日予約をしたんだけども、ちゃんと予約はできているのか、ちゃんと新幹線に乗れるのか、ドキドキしながらホームのベンチに座っていた。

新幹線が到着し、立ち上がる。そして、後ろを振り向くと、ポケットに入れていたはずの財布がベンチの下に落ちていた。

いきなりハラハラさせられながらも、目的の駅に着いた。

山に入るための舗装路歩きから始まるのだけど、空気がすでに美味しい。さすが新潟県。

そして最初の山につながる林道を歩き始める。

この日は9月の初旬。

「真夏は終わったし、新潟だから涼しいかな」と期待していたけど、まだまだ暑かった。

そしてトレイルに入る。

トレイルはすごく整備されていて、歩きやすい。ふかふかの床の上を歩いているみたいで気分がよくなった。そして、植物がきれい。

「なるほど、これが人気の訳かぁ!」と、気持ちよく歩いていたけれど、やっぱり暑い。登りながら、キンキンに冷えたビールやコーラ、ファンタなんかを想像するのがやめられない。

そして最初のピーク「袴岳(はかまだけ)」に着いた。

「いよいよロングトレイルが始まるな」とやる気のスイッチが入った。

(ちなみに、信越トレイルの公式ルートは袴岳の隣の「斑尾山」を踏まないといけないらしいけど、知らなくて踏んでいないので、僕のルートは信越トレイルのオリジナルルートになります。信越トレイルを歩きたい人は気を付けてね)

でも、最初のピークを下っているときに思ったことがある。

初めてロングトレイルをしたときのようなドキドキ感がない。慣れてしまっている。もう二度と、はじめては味わえないんだなと少し悲しくなった。

なんていうか、「はじめて」って、尊いんだなぁと思った。

しばらく歩くと赤池テントサイトに着いた。

二階の室内は入れないけどテラスで雨宿りができる
さっきの小屋から歩いて2分でテント場に着く
信越トレイルのテント場は全て予約が必要

人は誰もいない。

クマが怖いので、なんとなくド真ん中にテントを張った。

目の前には池がある

テントを張り終えたあとは、水汲みとトイレのために建物まで歩く。

この水道の水はあまり透明度が高くない

建物の脇に水道がある。

「この水飲めません」と書いてあるけど、浄水器を使えば大丈夫だ。

そして、建物の中のトイレがめちゃくちゃキレイで感動した。

大をするために、しばらく便座に座っていた。ズボンを下げた無防備な状態の僕に、トイレの外から聞こえる、秋の虫の音が染みわたる。

そして、それ以外は何も聞こえない静かな空間。

とんでもなく落ち着いた。

トイレって、すごいよなぁ…。

2日目

昨日の真夜中に目が覚めてテントの外の星空を見上げたら、星がものすごく大きくて、たくさんあって、非現実世界を見ているかのようだった。

たぶん、実際にきれいだったのと、僕の寝ぼけた脳が現実を10倍幻想的にするフィルターになって、とんでもない景色が見えたんだと思う。

あの星空はどう考えても、現実のものではなかった。

さぁ、歩くか!

川沿いの道にでる

しばらく歩いているとボート小屋にでた。

この信越トレイルは、山道だけではなくて、一般の舗装路やこんなボート小屋とときどき交差するところが面白い。

トイレがある
信越トレイルのカウンター

「毛無山」の山頂から道が二本生えていた。

一本はそのまま続く道。そして、もう一本を下るといきなりこんな景色が見えた。

雲海だ!

標高が高そうに見えるけど、よく見たらすぐ下に田んぼも見える!

不思議な光景だった。

しばらく歩くと、クマ(?)の糞のようなものも見つけた。

そのあとは、畑や大きな池の横を歩いたり、広大な景色が見える峠でお昼ご飯を食べたり、蜂に刺されたり、五角形の休憩所で休憩したりしながら、今日のテント場まで辿り着いた。

ロングトレイル中のベンチとテーブルはありがたい

桂池テントサイトには簡単な小屋がついていた。

何があるんだろうと覗いてみる。

なんと、水がたくさん入ったクーラーボックスがあった!

僕は水が足りていたので使わなかったけど、嬉しい気持ちになった。

そして、トレイルノートもある。

日常生活は観るものにあふれているので、誰かの日記を読むよりも、スマホをいじったり、PCをしたりする。だけど、誰もいない、晴れたポカポカの天気の中で、小屋の日陰を借りながら日記を読むというのは、十分すぎる贅沢だ。

ずっと読んでいた。

目の前にはまた池がある

そして思ったことがある。

このクーラーボックスやトレイルノートを見て、希望が自分の中に湧いたのを感じていた。

僕はロングトレイルをしていると「自分は何をしているんだろう」と虚しくなるときがある。そんなときに、感じのいい人とたまたま山で出会い、言葉を交わすと、その虚しさが消える。

それはつまり、僕には人が必要ということだけれども、クーラーボックスやトレイルノートのような人の「痕跡」でも、同じように虚しさが消えるということに気が付いた。

それほど、僕は人を渇望しているんだなと、このテントサイトで知った。

3日目

3日目が始まった。

テント場にテントを張るたびに「この先の道はどうなっているんだろう」と、いつも気になりながら、テント場にとどまっている。

出発の朝は、その答えがわかるときなので、いつもワクワクする。

沢で顔を洗う。

自動販売機も電気もない不便な山の中だけど、沢の水の冷たさだけは、冷蔵庫で冷やされた水をさわっているみたいに、贅沢な気分を感じさせてくれる。

スキー場のようなところに出た。

温度計があったので確かめてみると、25℃。今日はだいぶ涼しい。3日目になって身体の疲れを感じ始めていたので、ありがたい。

しばらく歩くと、ものすごくきれいな場所に出た。

信越トレイルの「ブナ林」だ。ブナの林に差し掛かるとちょうど霧もでてきて、幻想的な景色が広がる。吸い込む空気も格段においしく感じる。

しばらく歩くと、トレイルを歩いているグループに出会った。

どうやら東京のインターナショナルスクールの学生さんと先生が修学旅行で、この信越トレイルを歩いているらしい。

そして今夜、同じテント場で寝泊まりすることがわかったので、「じゃあ、またテント場で!」といって別れた。

歩いていると、またインターナショナルスクールのグループと出会った。どうやら4グループにわかれて歩いているようだった。

舗装路に出たので、座って休憩していると最初に話したグループが僕に追いついた。その中の先生と話をした。

その先生はスコットランドから来日したみたいで、最初は仙台に住んでいたけど、素敵な人と出会って、いまは東京に住んでいるらしい。

光ヶ原高原キャンプ場に到着してからも、先生の仕事の邪魔をしない程度にたくさん話した。

光ヶ原高原キャンプ場はとにかく広くて設備も整っている

最高の気分だった。

学生さんもフレンドリーで、たくさんの人が挨拶をしてくれて、その内の何人かと話をした。

僕は内向的で大人しい性格だけど、ハイキングや運動をして身体が熱を生み出している間だけは社交的になれる。遅れて到着した他の先生たちにもどんどん話しかけた。

一仕事終えた先生たちが集まっているテーブルにも、お邪魔した。

ベンチとテーブルもたくさんある

隣の席にはさっきまで話していたスコットランド人の先生がいて、また色々話した。

六人の先生のうち、一人はスロベニア出身で、残りの五人はイギリスの出身ということだった。ネイティブ同士の英語はとても速くて、ほとんど内容が聞き取れなかった。

最初のほうは雰囲気を楽しんでいたけど、あまりに聞き取れなかったのでだんだん落ち込んできて、席を外した。でもみんな優しかったのが、救いだった。

自分のテントまで歩く。

身体が冷えて、内向性が戻ってきているのを感じた。

4日目

朝、テント場の先生たちに別れを告げて、出発する。

落ち込んでいた。

昨日、先生たちのテーブルで会話について行けずに、さみしい思いをしたのが一つ目の原因だった。

もう一つの原因は、昨日横に座っていたスコットランド人の先生とたくさん話をしていたのだけど、その会話の中でお互いのパートナーの話題になったとき、彼が僕のパートナーのことを毎回「She (彼女)」といっていたので、「SheじゃなくてHe(彼)だよ」と伝えると、驚いた様子で、申し訳なさそうな表情をしていた。

そのことは全然いいんだけど、それ以降、彼に距離を置かれているように感じた。

向こうから話しかけてこなくなったし、僕が話しかけてもあまり乗り気じゃない様子だった。

嫌われたんだろうか…。

でも、もしかしたら、ただビックリしてどうしたらいいか分からないだけかもしれないし、その可能性は十分にあるけど、とにかく気分が落ち込んでいた。

そうやって落ち込みながら山道を歩いていると、ふいに過去の嬉しかった思い出が蘇ってきて、涙がでてきた。

やっぱり落ち込むことがあるからこそ、嬉しいことを嬉しいと感じられるんだな。

「またいい人に出会えるさ」と思うと、前に進む力が湧いてきた。

しばらく歩いていると、山の中に大きな池が現れた!

「幻の池」という名前らしい。

「こんな山のてっぺんに、こんな大きな池があるだなんて」秘境のような雰囲気に感動した。

池の水面は銀色の鏡のように見える。きれいだったのでジッと見ていた。ふいに、妖怪かなにかが出てきそうな雰囲気があって面白い。

昨日は小雨降っていたからか、今日は泥の道が多い。

そしてこの日も、信越トレイルらしいブナ林があった。

ブナ林に入ると毎回、霧が出ていて幻想的な雰囲気になる。

たまたまなんだろうか。それともブナが霧を発生させやすい何かをもっているのだろうか。

しばらく歩いていると、飲み物が入っていそうなクーラーボックスを見つけた。と、同時にそのすぐ先に6人くらい人が見える。

クーラーボックスよりも先に、その人たちに声をかけた。

どうやら信越トレイルを整備している人たちのようで、少し話をした。そして別れ際に「気を付けて、いってらっしゃい!」と見送ってもらったので、クーラーボックスを開けることなくそのまま進んでしまった。

歩きながら、「あのクーラーボックスの中にはコーラがあったのかな」とずっと考えていた。

コーラ飲みたいな…。

そんなことを考えながら歩き、今夜のテント場「野々海テントサイト」に到着した。

誰もいない貸切のテントサイト。そして、とても広い!

少し離れたシェルターには悪天候時用の部屋やコンセントが備え付けられている。

そしてなにより、トイレに感動した!

ドアを開けると、「ここはホテルか」と突っ込みたくなるような清潔な香り。トイレ臭さは微塵もない。電気まである。

そして個室のドアを開けると、

手動のウォシュレットも付いている!

ものすごくきれいなトイレが登場した。

「いや、ホテルかよ!」と思わずツッコんだ。最高すぎる…。試しに大をしてみたけど、居心地が良すぎて、ここで寝てしまいたくなるほどだった。

そして、ウトウトしながらテント場に戻る。

池の水をひいているようだ。水が出ない場合は近くの沢にいく

水道の水で身体を洗い、テーブルで晩御飯を食べた。

地上のホテルとなにも変わらない。トイレがあるし、テーブルとイスもある。水道もあるし、コンセントと電気もある。おまけに超新鮮なエアーと景色が楽しめる。…最高だ。

ただテントに戻ったときに異変に気が付いた。

臭い。臭すぎる!テントの中があまりに臭い。原因は4日間ずっと使い続けた靴下だった。

2日目に、靴下から犬の臭いがするなと思っていたけど、いまはスルメイカの臭いがする。あまりに臭いのでジップロックに封印し、予備の靴下を出した。

ワークマンの安物を使っていたけど、モンベルとの値段の差はこういうところに出てくるのか…。

そのあとは、近くを散歩した。空気が本当に美味しい。

テントを張り終え、サンダルに履き替え、身体を洗い、風に吹かれているこの瞬間が最高に幸せだ。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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