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「死ぬんだ」と思ったときに見えた本質的な孤独と、人とのつながりの幻想

今回の文章は、病気のことや死への恐怖について書いています。しんどい気持ちにさせると思いますので、読まれる方は注意してください。

28歳の頃でした。

原因不明の体調不良が僕を襲いました。

肝機能の数値がどんどん悪くなり、体調がどんどん悪くなっていました。身体を起こすだけで、息が上がり、苦しく、立つことができない状況でした。身体を横にするといくらか楽になるので、ずっと横になっていました。

発症してから一週間経っても、体調は悪くなるばかりでした。

日に日に、身体に力が入らなくなっていきました。力が入らないとは、握りこぶしをつくれないような感じです。そのことに一番よく気付くのは、朝起きたときでした。毎朝、「昨日よりも更に、身体の力が入らなくなっている。弱っている」ということを実感していました。

直感的に、「僕は死ぬんだ」と思いました。

それは、身体の弱っていくのをダイレクトに感じているので、そう思ったのと、僕は不安なことがあったときにいつも、最悪のケースを想像する癖があるので、そう思いました。

起き上がることができないので、当然外には出られません。なので、外の世界を知れず、ずっと部屋に閉じ込められているような状況でした。

ふと「外に出たい」「自然と一体になりたい」と思い、立っていられない身体を壁でなんとか支えながら、ふらふらとアパートの二階から地上まで歩いていきました。

そして、やっとの思いで辿り着いたバス停のベンチに座りました。

時刻は夕方でした。

到着したバスに乗り込む若い男性の姿が目に入りました。

そのバスは繁華街行きのバスだったので、「あぁ、これから街のなかの居酒屋にでも行くのだろうか。そして、そこには友人が何人かいて、死などとは程遠い世界で、楽しくワイワイ騒ぎながら幸せな時間を過ごすのだろうか」と思いました。

バスから降りた、スーツ姿の若い女性が住宅街に向けて歩いていました。

「あの人の帰る家には、家族がいるのだろうか。それとも一人暮らしなのだろうか。仕事のストレスもあるだろう、それでも家でテレビを見たり、お酒を飲んだりできるんだな。あの人には明日があるんだな」と思いました。

バス停に立っていたおばあちゃんに対しても「かなりの年月を生きてこられた人だけど、まだ元気そうだ。僕よりもたくさんの時間が残っているんだろうな」と思いました。

かなり、つらかったです。

その時、急に理解できました。

人間は皆、孤独なんだ。「いままで、人と会話をしたり、ふざけ合ったり、一緒に生活をしたりして、人とつながったような気分でいたけど、実は、一切つながっていなかったんだ。僕らは、人と話したり、バカなことを言って笑ったりすることで、死への恐怖を無意識に遠ざけていたんだ」「人と同じ方向を向いて、一緒に歩いているように思っていたけど、それは同じ線の上ではなく、平行な別の線の上を歩いていたに過ぎないんだ。交わることは決してできないんだ」そう気付きました。

その若い男性にも女性にも、おばあちゃんにも、身体の周りを覆うベールのようなものが見えました。「あぁ、それぞれ、みんな個別で、独立した存在なんだ」と深く確信し、「そもそも、誰かと交わることなんて、できなかったんだ…」と絶望感に立ちどまりました。

部屋に戻ってからも、続きます。

僕は元々、部屋をオシャレにしようと、お気に入りの家具や小物をそろえていました。

毎日一緒に過ごした、その愛着のある本棚や木箱、オーダーメイドの絨毯も何もかもが、僕を突き放しているように、強烈に感じました

「僕が所有していると思っていた、僕のものだと思っていた本棚は、僕のものではなかったんだ…」と気が付きました。

本棚は本棚として、そこに独立してただ存在しているだけでした。「独立した存在であるモノの境界線を突き破り支配する『所有』という行為をおこなうなど、そもそも不可能なことだったんだ」と絶望感のなかで気が付きました。

結局、僕の体調は回復しました。

そして、社会生活を再開し、人との交流を繰り返すことで、あのとき感じた「絶望的な孤独感」は日に日に埋もれて、薄れていっています。

ですが、またいつか必ずやって来る、その恐怖にどう立ち向かえばいいのか、まだ分かりません。

ただ、だからこそ、この雑多で多様でカラフルでうるさく賑やかな日常のなかで、不安や喜びに支配されながらも試行錯誤しながら生きて、あがく「人間の儚さ」が、「尊さ」として強く実感できる日が来るのかもしれません。

もしくは、あのとき感じた孤独の恐ろしさを、無理やり、いい方向に向かわせようとしているだけなのかもしれません。

いずれにせよ、人間ができることには限りがあります。僕も、あがき続けようと思います。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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