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【ロングライド ♯4】日本海が見たい!群馬・新潟・福島・栃木を走る680kmの自転車旅

もくじ

4日目

熊に襲われる夢を見た。

夢の中で、テントにいるはずが車の中にいて、熊が車のドアを少し開けた。

「やばい」と思い、閉めようと手を伸ばしたら、急に犬が登場してきて、手を噛んできた。「いたー!」っとパニックになりながら、もう一度手を伸ばして閉めようとしたら、今度は熊に噛まれて、指にとてつもない激痛が走るという夢だった。

朝の支度を済ませて、出発する。

今日はだいぶ冷え込んでいて、冬の匂いさえ感じる。そんな空気の中を進むのが、気持ちよかった。

冬の冷たい空気の中にいると、疲れた自分でいても「許されるような、慰められるような」安らぎを感じる。「ただ寒さに耐えているだけで、自分のやるべき仕事は十分にやっている」というような許しを得られたような気分になる。

許し?何に対してだろう?

でもとにかく、空気が澄んでいて美味しい。気持ちがいい。

そして今日はついに、人生初の日本海が見られる!

地図を見た感じ、この川沿いの道をずっと行けば、海に行き着きそうだ。

でも、トイレに行きたくなったので、一旦川沿いの道を外れる。

ドラッグストアを見つけた。

地上に降り立ち、入り口に向かって歩いているときに、ものすごい眠気を感じた。試しに目を閉じてみると、無重力の世界にいるみたいにフワフワして気持ちよかった。

トイレの個室は、旅人にとってのオアシスだ。人目を気にせず座れる。温かい便座が慰めてくれる。用を足しながら、スマホで地図を見て計画を立てられる…ホッとする。

そして、また走る。

景色がどんどん変わっていく。

そして…

日本海に出た!!

栃木県に引っ越してから見る、はじめての海でもある。

「やっとここまでこれた」

心の中で自分をほめた。

でも、日本海だろうが「海はどこでも同じような見た目だな」とも思った。

砂浜に寝っ転がってしばらく写真を撮っていると、気持ち良くて、眠たくて、なんだか全てがめんどくさくなってしまった。ここは、また旅の中間地点。

「ここから、また帰るのかぁ…」

そして、今晩泊まるキャンプ場が利用可能かどうか、ネット上ではいまいちよく分からなかったので、電話で問い合わせた。すると、

「利用可能です。ただ山の中なので熊に注意してください」

と回答をもらった。

そうか、熊か。

僕はこれから、熊の生息地に向かうのか。

とりあえず、進む。

しかし昼間は、朝とはうって変わって、夏って感じの爽やかさだった。晴れ空、気分がいい。

そして、今晩のキャンプ場で熊に遭わないように、100均で食べ物の匂い対策用に、ジップロックを買う。

それから、ちょっと遅めのお昼ご飯を食べに、「大戸屋」というレストランに入る。

疲れや眠気で、周りのものに対する感覚が鈍くなっている。リラックスできているともいう。お店に入っても他の人のことが全く気にならない。

自分の身体の疲れや眠気だけに、ただフォーカスしている。ダイレクトに自分の身体とつながっているような感覚だ。どんどん自分の身体の深海に潜っていくような…。

心地よかった。

チキン南蛮も白米も大盛りを頼んだら、ものすごい量が来て、幸せだった。

「これを全部食べていいんだ」

そして、大戸屋をあとにする。

さすがに量が多すぎた。チキン南蛮の油が吐き気をもよおした。

ペダルを漕ぐ。

そしてそのあと、ある家に寄った。

実は、この旅の間に、「共に育つ」という禅僧の方が出版しているエッセイ集を、ちびちびと読んでいた。

それがものすごく面白くて、「他の『巻』はどうやったら手に入るんだろう」と、その本をくれた友人に連絡をした。

すると、その友人から、その禅僧の方は「新潟県に住んでいるから、もし行けそうだったら、是非尋ねてみて!」と返信があった。

返信と一緒に送られた住所を見てみると、なんと今夜のキャンプ場のすぐ近くだった。

そして、その家に到着し、「すみませ~ん」と呼びかけてみた。

すると、「は~い、ちょっと待ってください」と女の人の声が返ってきた。

どうやら、禅僧の方は今は県外に行っているらしい。そして、その女の人は奥さんで、「お茶でも飲んでいかれますか?」と僕を家にあげてくれた。

日本庭園のような庭が見える椅子に座り、目の前のテーブルにはお菓子とお茶が置かれた。

奥さんに、自己紹介と、ここに来た経緯などを話した。一通り、必要な話をしたあとに、僕のプライベートな話なんかも聞いてもらった。

「初対面だからこそ、言える話もありますよ。話したかったらでいいですけどね」と言われて、話したくなったからだ。

僕が精神疾患にかかる原因となったトラウマの話や、同性愛者であることの苦しみ、外国人パートナーに対する差別的な出来事や、外国人であるパートナーと外出していると、ヘイトのような感情を向けられているんじゃないかと人目を気にしてしまう自分の弱さと、日本という母国に住んでいるのに感じる、心細さ。

一時間以上、話していた。

奥さんは、全身全霊を込めて僕の味方であることを伝えてくれた。

そして奥さんに、「このあと、熊が出るかもしれない場所でテントを張って寝るから、めちゃくちゃ怖い」ということを伝えると、鈴をくれた。

ナッツやカロリーメイトや、除菌シートもくれた。そして、「お気を付けてくださいね!」と、笑顔で見送ってくれた。

ありがたい…。

もう少しでキャンプ場というところで、こんな看板を見つけてしまった。

熊の目撃情報がありました。

心が凍り付いた。

心細い気持ちで走っていると猿と遭遇した。もう気が気じゃない心を押さえつけて、無理やりキャンプ場まで走る。

キャンプ場には人が7人もいた。

ものすごくホッとした。

このキャンプ場でも、なんともいえない心地よさを感じた。

変な表現かもしれないけど、周りとの妙な一体感を感じた。周りに包まれているような感じが、ものすごく心地いい。

僕は単独行動が好きだけど、団体行動が好きな人たちは、この心地の良い一体感をいつも感じているのだろうかと、少し羨ましくなった。

そしてもし、ここに熊がいなかったら、この妙な心地よさは味わえなかったと思う。

熊が出るからこそ、この一体感を味わえる。

だとすれば、社会生活における、団体行動の人にとっての熊のような存在とは一体なんなのだろう。

時刻は21:00。

テントの外から、他のキャンパーの話し声や笑い声、歩く音が聞こえる。そして、僕の周りに膜が張られていくみたいに、外の音がだんだん遠のいてゆく。

安心感と共に、僕の意識は眠りの中へ沈んでいった。

飲み物×2185円
バナナ149円
大戸屋1300円
ジップロック110円
キャンプ場無料
合計1744円
朝ご飯と、晩ご飯は昨日の残りを食べた。
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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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