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【ロングライド ♯2】日本海が見たい!群馬・新潟・福島・栃木を走る680kmの自転車旅

もくじ

2日目

朝が来た。

テントのジッパーを開けて、外にでる。

いろんな種類の鳥が、高い声で鳴いている。僕は、朝食のためのテーブルに座る。

気持ちのいい朝だ。

本当は、気が済むまでのんびりしていたいけど、今夜の宿が待っているので、少し急ぐ。朝ご飯を終え、テントを片付ける。無職の自分、将来の不安が心をよぎる。

出発しようとしたら、かわいい虫が僕のバッグにとまっていた。

しばらく観察していたいけど、もう行かないといけない。かわいい虫を、あじさいの葉っぱに移した。

さぁ、行こうか。

途中、なんでもない道路で立ちどまってのんびりしていた。それを繰り返すうちに、だんだん、肩の力が抜けていくのを感じた。

「社会人」から「旅人」に変化している瞬間かなと、思った。

どこに立ち止まってもいい、どれくらい長く立ちどまるかは自由。草や花や、ほとんどの人が見ないガードレールの錆びたネジなんかも、思う存分見られる。それで変に思われることもなければ、急かされることもない。そうやって、自分だけの時間を過ごしていると、自然と周りの目を気にする自分が小さくなっていた。

今日は、この旅で一番ハードな日になる。長距離を走るうえに、「三国峠」という峠を越えなければならないからだ。

最初の45kmは多少のアップダウンはあるものの、ほぼ平地。だけど、そのあとから峠道がスタートする。

そして、その峠道の手前まで来た。

体力のガス欠を起こさないように、峠までの道の最後のスーパーに寄って、パンをたくさん買った。

スーパーに入ったときに、思った。

「緊張しいで、ビビリの自分が、だいぶ逞しくなっている」

ちょっと前までの自分は、お店に入るのも怖くて緊張していた。いつも「どうしようか」と躊躇して、結局入れずに終わっていた。でも今は、なんのためらいもなく自然にお店に入り、複雑に考えることもなく普通に店内を歩いていた。ここ最近、旅をして、人と接する経験を重ねているおかげで、少しずつだけど強くなっている。

やはり、経験が大事なのかもしれない。

僕は大人になるまで、あまりいい人に囲まれてこなかったし、トラウマがあるので「人は自分を攻撃するもの、わざわざ傷つけてくるもの」というイメージを、いまでも少し持っている。

そして僕は、必要以上に自分を弱く見せて、許しを乞おうとしてしまうところがある。そうしないと、相手の気分を害してしまった気がして落ち着かなくなる。

だけど今は、別にそんなにへりくだらなくても、普通の自分でいても、周りの反応を見る限り、別に失礼じゃないし、自分が悪いことをしているという気持ちもあまり持たずにいられる。

「人と話しても、攻撃されなかった」「店に入っても、嫌な目に遭わなかった」そういう経験を積み重ねることで、自分の負の記憶が上書きされているのかもしれない。

希望を感じた。

そして、峠を登る。

すれ違うオートバイの人と、挨拶をしながら走った。

途中、こんな看板を見つけた。

ゆうえんち

行ってみると、こんな場所だった。

これが「ゆうえんち」なの?と思って看板を見てみると、なるほど。

納得した。

峠の坂道を、目の前だけに集中して登った。息は切れるし、脚も疲れる。そして、日射しも強い。

僕は坂道が苦手だ。

落ち葉で全然、進まない。

ふと、顔を上げた瞬間、目の前の歩道にお猿さんが6匹いた。

一番大きな猿が、小さな猿の毛づくろいをしている。多分、親ザルと子ザルだろう。僕の姿に気付いた4匹は山のなかにパッと逃げていった。でも、残りの2匹は僕の進行方向に逃げていく…。僕が猿を追いかけているみたいになった。

「攻撃しているわけじゃないからね」と、無害で自然な表情をよそおって走る。

「猿はいいけど、熊が出ませんように…」そう祈りながら、走る。

僕は、熊のほとんどいない愛媛県からやってきたので、「本州、特に東日本といえば、熊」というイメージを持っていた。ときどき通る車が、心強い。

峠の山頂に近づくと、車が少なくなってきた。…怖い。

そういえば、4日目と5日目は、新潟と福島の山の中にテントを張るんだった。怖くなってきた。

でも、とりあえず、今日の目的地を目指そう。

そしてついに、山頂のトンネルを抜け「新潟県」に入った!

苗場スキー場の街を走る。

これが雪国の信号機!

苗場の街を抜けて田舎道を走っていたら、歩道にまた猿が5匹いた。

今度の猿は逃げずに、静かに道を開けてくれた。僕はビビりすぎだなと思って、しばらく走ったあと後ろを振り返ると、なんでもない木の葉っぱが猿に見えてビビった。

そして、日が少し傾いてきた。

ひぐらしの鳴き声がたくさん聞こえる。ちょっと寂しくなってきた。

今日の宿で友達できないかなぁと思った。

そんなわけないよな…。

山道をずっと走っているせいか、どんどん寂しくなってきた。

日常のことを思い出して、心のエネルギー補給をする。

雪国のバス停

そのあとトンネルに入った瞬間「さむっ!!」と、自分の口から声がでた。トンネル内が予想外の寒さで、驚いた。

しかも、道が狭く、トンネルも長い。横を抜いていく車に、ドキドキしながら、出口の光を求めて走った。

トンネルを抜けた後、いったん自転車を置いて、休憩する。

胸がドキドキしすぎて、ドキドキが吐き気に変わるほどだった。身体が緊張でプルプル震えていて、いったん休まないと進めない気分だった。

疲れた。

近くの丸太に座る。

心地いい。けど、吐き気で気持ち悪い。しかも、心細い。まだ、2日目なのになぁ。

その後、道の駅で「柿の種」を食べると、吐き気が和らいだ。

トイレも雪国仕様!
本場の柿の種は上品なお味だった。

そのあとは、トンネルの中に自転車のワイヤー錠を落としてしまったのを、タイミングを見計らって回収しにいったりしながら、なんとか南魚沼市みなみうおぬましについた。

日が沈んできて、心細かった。

疲れて、オートバイの人に挨拶をする気力もなくなる。うつむいてひたすらペダルを漕いだ。

なんだか異国の地にいる気分だった。

疲れたときによく感じる「周りから攻撃されるかもしれない」「嫌な目に合うんじゃないか」という不安が湧き出している。

早く宿に着きたい。

むっつら?

スーパーのトイレに座る。

こんな精神状態のときに、宿の人が「ようこそおいでくださいました。ごゆっくりお休みください」と声をかけてくれたら、言葉以上に、本当にホッとするなぁ、と便座の上で想像していた。

元気なときは「言葉なんて、言うこともできるし言わないこともできる、葉っぱのようにヒラヒラした軽いものだ」というくらいにしか受け取れないけど、こういうしんどいときに、そういう言葉が、本当に、身体の芯まで響くんだなと思った。

そして、今夜の宿が見えた。

安いホテルだと思っていたら、ゲストハウスだった。

宿の方は、優しくてユニークな方だった。宿のロビーも、いろんなこだわりが詰まった、オシャレで温かみのある場所だった。

ホッとした。

鍵をもらって、部屋に入る。

「あぁ、ここは僕だけのプライベート空間だ」

早速、荷物を散らかし、自分の空間をつくる。

たまらなく幸せな瞬間だった。

そのあと、共用のトイレやお風呂、共用の洗面台で歯磨きをしながら、こっそりと修学旅行気分を楽しんでいた。

全てを終えて、ベッドの上に座り、ぼーっとする時間がたまらなく心地いい。

時間があっという間に、流れていった。

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パン×3396円
柿の種269円
晩ご飯1386円
ゲストハウス2900円
合計5250円
朝ご飯は昨日の残りを食べた。
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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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