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【ロングライド ♯3】広島・山口・福岡・大分の海岸線を走る450kmの自転車旅

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3日目

アラームで目が覚めた。

もっと寝ていたいけど、残りの距離を考えると起きるしかない。

ホテルで朝食を食べる。食堂のテレビは「11月とは思えない真夏日になる」と伝えていた。

ホテルの前で自転車を組み立てて、出発する。予報通りの暑さだった。

下関に着いた。ここで行ってみたい場所があった。

「おかもと鮮魚店」

職場の人から、海鮮丼が美味しいと聞いていた。少し遠回りになるけど、せっかくなので行ってみる。

お店の入口は鮮魚店になっていて、その奥に行くと食堂があった。

席に座り、一人前の海鮮丼を注文する。地元の人が多そうな店内を見渡しながら待っていた。

そして…

「キター!!!!」

これで、1100円!

気持ちの高まりが抑えられなかった!

高揚した気持ちで海鮮丼にしゃぶりつく!

いろんな種類の魚が、次々と口に飛び込んでくる。一匹の魚が口を通過するたびに、夢をみさせてくれているかのような気分になった。

とにかく夢中で、魚を食べる。

うまい。たまらない。いろんな種類の魚が次々に口の中を通過してゆく。魚、魚、魚、魚、魚…。あっという間に、平らげてしまった。

ちなみに、みそ汁にも魚が入っていて、魚の出汁たっぷりの最高のお供だった。

一気に体力と気力が回復した。

外に出ると、今夜のホテルをとるために予約の電話をした。もちろん、ロードバイクが入れるか、今回はちゃんと確認する。場所は大分の「豊後高田ぶんごたかだ」だ。

ホテルが決まれば、あとは走るだけ。

さあ、行こう!

そして、一度通ってみたかった「下関関門海峡しものせきかんもんかいきょうトンネル」を通る。

海の中を通る海峡トンネル。

門司もじ」へ向かって、海の中を歩いていた。

そして、山口と福岡の県境線で写真を撮ろうとしたちょうどその瞬間、反対側からきた三人組も写真を撮ろうとしていてタイミングが被った。

その三人組が「どうぞ、どうぞ」と譲ってくれたあと、その内の一人が「よかったら、写真を撮りましょうか」と歩み寄ってくれた。

「ありがとうございます!」とお願いしたあと、県境でポーズを取る。

三人組の一人が僕のスマホで写真を撮っていると、残りの二人がダメ出しをしていた。

「山口県と福岡県の文字が全部映ってないじゃん」「こっちの角度から撮ったほうがいいんじゃない」「ちょっと代わって」と、トンネルのなかでモデルになった気分だった。

そのあと、その三人組と話をした。

一人が40歳くらいの女性、二人が36歳の男性だった。

女性の方は、NPO法人で子供の支援をしている方で、学童の先生もしているそうだ。男性二人はその先生の学童に通っていたらしく、しかも、この二人は年齢も生年月日もまったく同じということだった。

東京から来ていたみたいで、女性の方が「次は東京まで自転車で来てください」と名刺を渡してくれた。「この世には、まだまだ面白い世界がたくさんあるんだな」という予感を与えてくれるような、とても面白い人たちだった。

「あぁ…」

まさか海峡トンネルでこんな面白い出会いがあるとは思わなかったので、気持ちが一気に明るくなった。

だけど、先はまだ長い。

看板の地名が全て九州になっている。

黙々と走っていると、「広島も山口も福岡も、どこを走っても別に同じだな。広島特有の空気の匂いがあるとか、山口特有の空の色があるとか、福岡特有の道路が伸びているってことは、ないんだな。当たり前だけど」と思った。

今夜のホテルには「20時か21時には着くと思います」と伝えていた。

そして、僕はまだ18時の福岡にいる。

「時間、間に合うかな」と心配になってきた。別に、遅れるのなら電話で連絡をすればいいだけなんだけど、電話口で「はぁ、はいはい。わかりましたよ」というようなトーンの返答が返ってきたらショックなので、なるべくなら電話をせずに間に合わせたかった。

チェックイン時間のプレッシャーに押されながら、ロードバイクを漕ぐ。

だけど、漕いでも漕いでも、近づいている気がしなかった。実際は近づいているんだけど、夕暮れ時の心細さで不安な気持ちになっていた。

「ちょっと休もう」と、道の駅に入った。

360度、風が吹き抜ける夕暮れ時の田舎道を延々と走るのは、とても心細かった。

道の駅に着いて、自転車をとめる。適度な人工物で囲まれた道の駅の地面に足をついて、立ちどまると、周りの景色もとまっているのがわかり、ものすごくホッとした。

そして祈るような気持ちで、残りの距離をチェックする。スマホの地図で、今日の目的地にピンをたてると「16km」とでた。

「よっしゃ、いける!」

「これなら、残りの道をゆっくり走っても、十分間に合う!」と全身の力が抜けていく。夕暮れのオレンジに染まった道の駅の中を、ゆらゆら歩くのはとても心地よかった。

そして、館内に入ったときの暖かさが感動的だった。「助かった」「これで、大丈夫だ。行ける、行けるぞ!」と気分が入れ替わった。

あぁ、この温度。ありがたや~!
かぼすちゃん、君に決めた!

ホテルまで、もうひと踏ん張り。

景色が見えない真っ暗な世界を、黙々と進んでいると、心にある考えが浮かんだ。

この旅で、いろんな人に会い、いろんなものを食べ、いろんな景色を見て、いろんな経験をし、そしていろんな感情を味わった。

そして自転車旅も、続けるにつれて最初の新鮮さを失っていった。

いい感情も、悪い感情も「浮かんでは薄れ、浮かんでは薄れ」の繰り返しだ。この3日の中に濃縮された様々な感情は、この3日の中で薄れてゆく。

どの感情もずっとは続かないということを体感的に学んだ。

ちょっと寂しいような気持ちにもなるけど「それが、生きるってことだから、まぁ仕方ないよな」と、その事実を受け入れるしかないなと思った。

「すべての感情はずっとは続かない」という大前提をもっとしっかりと体感的に持てたら、人生をもっと軽やかに生きていけるのではないかとも思った。

そんなことを考えていると、ホテルがある豊後高田に着いた。

でもまずはホテルに着く前に、どこかで腹ごしらえをしないといけない。おもしろそうな個人店はないかとウロウロし、台湾料理「大王府」を見つけた。

「せっかく冒険をしているのだから、食でも冒険しないとな」と、食べたことのない台湾刀削麺たいわんとうしょうめんと麻婆丼のセットを選ぶ。僕はいま大分の中の台湾にいる。

店員さんは(おそらく)台湾の方だった。

ものすごく、感じが良くて癒された。営業用の愛想笑いとは違った、身体の芯から湧き出るような笑顔にエネルギーをもらった。

そして、台湾刀削麺が来た。

…これは、たまらん!!

「いただきます!」

台湾刀削麺はほんのりピリ辛のスープで、ナチュラルなテイストが美味しい、贅沢なラーメンだった。美味しくて、美味しくて、食べながら左右上下に身体でリズムをとる。興奮で身体の動きが収まらなかった。

あぁ、たまらない。

食べ終わり、一息ついたあと会計をする。

店員さんに「美味しかったです!」と伝えると、笑顔で「ありがとう!」と応えてくれた。そして、あわてて「ありがとうございます!」と言い直していた。

見上げると、満月が。

そしてホテルに到着すると、ツインルームが空いていたので、シングル料金で貸してくれた。

今日もいい一日だった。

明日が最終日。フェリーの時間に間に合わせるために、また6時起きだ。

おやすみなさい。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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