【テアラロア Day40】ロングトレイル魂

もくじ

とんでもない数の渡渉

一夜、明けた。

体調は昨日より良さそうだ。

いままでのように、すれ違う人に100%の意識を向けて、挨拶をすることもなくなっていた。そんなことより、自分のことだ。

ここまで730kmをすでに歩いている。残りは500kmだ。頭の中では、現実的な数字として、カウントダウンが始まっていた。

そして淡々と歩く。

ただ、今日の道はものすごく歩きにくい。下り坂だけど、地面は河原の石ばかりで、水ぶくれが痛い。そして、川沿いに歩くのだけど、道が川に頻繁にブロックされるので、何度も何度も渡渉をしないといけなかった。

歩くコースは自分で考える。そして、ベストなところを選ぶ。

僕は回数を数えていなかったけど、人によると66回も川を渡った人がいたようだ。

そして、腰のシコリや足の痛みを我慢しながら時速2kmにも満たない速度で、4時間ほど歩き続けた。

ちなみに、ここまで歩いてきた靴はもうすでにボロボロで穴がたくさん空いているので、川を歩いているときに小石が入り込んでくる。

そして、皮が剥がれた水ぶくれの生身の肉のところに入り込み、気付かずに一歩踏み出し、鋭い痛みが走る。

その度に座り込んで、小石を取り除く。

途中に、ハットがあったので、トイレを借りて、ハットの外にマットを敷いて紅茶を沸かした。

ビショビショの靴と靴下を脱いで、ニュージーランドの強烈な日差しに、乾くのをまかせる。

ロングトレイル魂

そうしていると、反対方向から一人のTAハイカーが歩いてきた。

挨拶を交わし、「今日はどこから来たのか」「どこまでいくのか」などTAハイカーお決まりの会話をする。

彼女はカナダから来たようで、僕は日本から来たというと「ナイス!」といったあと、彼女の母が京都に4年間住んでいた話をしてくれた。そして「抹茶が大好きなんだよね〜!」といっていた。

ここで、腰にシコリができたことを、ふと話してみた。

すると、なんと彼女も腰に同じようなシコリができているということだった。

なので興奮して「ハイカーだとよくあることなのかな?」と聞いてみると、「いや、それがいままで色んな人に聞いてみたけど、誰もなっていなくて」「初めて同じ症状の人と出会えたよ!」と返ってきた。

おぉ…!

実はこのシコリについてずっと悩んでいた。一日歩き終わったあとに、ザックを背負わずに身体を休めていると、シコリは小さくなって赤みも減るのだけど、翌朝またザックを背負わないといけないから、結局もとに戻る。

彼女のシコリはどうなのか聞いてみると、やはり同じような感じらしい。

僕はニュージーランドの南島を縦断するので、歩く距離は1300kmだけど、彼女は北島と南島の両方を縦断するので、距離は3000kmになる。

そして、おそらくここまで2300km歩いてきたことになるけど、ずっとそのシコリと付き合っていたそうだ。

そして彼女は腰だけじゃなく、アキレス腱や足の甲にも爆弾を抱えているといっていた。

そうやって話していると、おばちゃん&おじちゃんTAハイカーがやってきた。

挨拶を交わしたあとに、おばちゃんに「テアラロアは順調に進んでる?」と聞かれたので「順調です。でも、トラブルや身体の不調もあったりしま…」す。と言いきる前におばちゃんが「もちろんよ!!」と元気あふれる声で反応してきた。

そのとき、平手打ちをくらったかのように、気がついた。

そうか、僕は平穏無事なままでロングトレイルを終えることを望んでいたけれど、そもそもロングトレイルなんてやっていたら、いろんなトラブルがあって当たり前なのか。それがロングトレイルなのか。

最近はいろんなトラブルが起こって、気持ちが沈み気味だったけど、これが当たり前なのかと気が付き、気持ちが楽になった。

ロングトレイル魂を教えてもらった瞬間だった。

そのあとも、カナダ人女性に「このテアラロアが、初めての一人海外旅行で…」というと、「日本が恋しくならない!?」と返ってきて、「めちゃくちゃ恋しい!」と話し、「わかる!私も外国に住んだことがあるけど、最初の五ヶ月はずっとホームシックだった」と話してくれて、心のエネルギー補給ができた。

そして、ハットを出発し、しばらく歩いたところでテントを張った。

テアラロアという箱庭の中で

腰にシコリができてから、「大丈夫なんだろうか」とずっとうっすら悩んでいたんだけど、たまたま話した一人が、まさか同じシコリを持っているとは思ってもみなかった。

そして、壊れて動かなくなっていた一眼レフをダメ元で充電し直して、電源を入れてみると、なんとまた動き始めた!

いろんなことが起こるロングトレイルを歩いていると、まるで神様という名の先生が、人生について教えてくれているように感じる。

昨日はギブアップしかけたけど、まだまだ続けられるんじゃないかという希望が見えた。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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