タイムリミット
5時にセットしたアラームで起きる。
外は真っ暗で寒い。
あぁ、動きたくない。でも、ベリーに会いたい気持ちが上回った。
朝ごはんはアーモンドのみで、とにかくさっさと準備をする。朝5:50、出発の準備が整った。サムもケイロブも同じタイミングで準備が終わった。
三人で出発する。

一昨日会ったジョースは「ベリーたちのシャトルバスは10:00に着く」といっていたけど、ベリーと一緒にいるルーカスは「10:30から11:00にシャトルバスが着く」とケイロブに伝えていた。
なので、とりあえず10:00を目標にして歩く。

間に合うと思っていたけど、今日の道は思った以上にハードだった。
深くて流れの速い川を何度も渡る。

サムとケイロブに「川を渡るときは、ザックのバックルを一つだけ残して、あとは全部外したほうがいい。それとストックと紐も手に通さないほうがいい。そうしたら、もし流されたとしても、ザックもストックも簡単に外せて安全だから」と教わった。
みんなで、浅くて、流れの遅い場所を探しながら川を渡る。
そうやって歩いているうちに10:00が来た。
シャトルバスが到着する場所までは、まだ2kmほどある。ルーカスが言っていた「10:30から11:00に来る」というのを信じて、スピードは緩めずに、進み続ける。
そして最後の一キロは歩きやすい道になった。みんなで走る。
途中からサムが先頭を走った。足に水ぶくれがある僕とケイロブは遅れをとる。
「ありがとう、サム」と思いながら、一人がつけばシャトルバスを引き止めてくれると思い、ヘロヘロの僕とケイロブはスピードを緩める。
そして10:30、バス停に着いた。
ベリーたちは、いなかった。代わりに、ケイロブと一緒にテアラロアを歩いていたアメリカ人の「ローズ」と、ドイツ人の「ヤン」がいた。
二人の話によると、10分前にシャトルバスは出発したということだった。そしてベリーが「りゅうやは強い。必ず間に合う」と話していたことをヤンに教えてもらい、嬉しかったのと同時に、「会いたかったなぁ」とさみしくなった。
まさかの渡渉
「そうか、シャトルバスは行ってしまったか」と思っていたら、ヤンが「話によると、今は川を渡るには、絶好のコンディションらしいから、これからローズと川を渡るんだけど、一緒に渡る?」と聞かれたので、五人全員で渡ることにした。
そしてヤンが渡りやすいポイントまで僕たちを先導する。

ちなみにヤンは毎年、ロングトレイルを歩いている。ローズもアメリカのロングトレイル「パシフィッククレストトレイル4000km」と「アパラチアントレイル4000km」を歩いたことのある経験者だ。
僕は渡渉が怖かったので、ローズに「渡渉するときの、コツってあるの?」と聞くと、みんなで腰に手をまわしたり、ダイヤモンドの陣形になって固まって歩く方法や、基本的な歩き方を教えてくれた。

でも、今回はそんなことをしなくても渡れるコンディションなので、心配はいらないということだった。
そして実際に渡る。

本当に全く怖くなかった。むしろ、今日のバス停に着く前に渡った川や、前に渡ったアフリリ・リバーの方が怖かった。
水ぶくれのひどい僕とケイロブは、河原の石だらけの上を歩くと足が痛いので、そっちの方が大変だった。
そして途中にある流れが遅く深い川に、上半身裸になってみんなで飛び込んだ。身体と気持ちがさっぱりする。
川は3時間かけて、渡り終えた。
そのあとは、「ポッツ・ロッジ」というロッジにみんなで向かい、ビールとピザを食べる。
いうまでもなく最高だ。

そして、ロビーのソファーに腰掛ける。昨日から歩いてばかりで、お疲れの僕とケイロブは一瞬寝落ちした。サムはものすごく体力があるので、ヤンと話している。
そしてしばらくして重い腰を上げる。濡れた靴下と靴を履く。歩くたびに痛む水ぶくれを我慢しながら、テントを張れそうな場所まで歩いた。

ちなみに、ひどい水ぶくれの写真を撮ったので興味のある人だけ見てほしい。グロテスクなので閲覧注意だ。
ここをクリック

先にシャトルバスで川を迂回したベリーたちは僕たちよりも10kmほど先にいるらしい。追いつきたかったけど、足のコンディションが酷かったので、ケイロブ&ローズと同じ場所にテントを張り、今日を終えた。
サムとヤンはまだ進むということだった。
足りている幸せ
ちなみに今日テントを張った場所には川がない。飲み水を十分に用意していなかったけど、ケイロブが700mlほど水をくれた。
僕は水をたくさん飲みたい人間なので、700mlでは少し物足りないけれど、冷静に考えれば700mlあれば十分だと気付いた。
今日は昨日と違い、完全なフラットの地面で眠れる。
水が大量にある日や、フラットな地面で眠れる日、電波が届くのでスマホをいじれる日、モバイルバッテリーの残量がたくさんあるので思う存分読書ができる日、川で水浴びをしたから寝るときに身体が気持ちいい日。
いろんな日がある。全てがそろうことは滅多にない。
今日は水が少ない日だけど、フラットな地面と、清潔な身体で眠れる日だ。
そう気付くと、気持ちが少し落ち着いた。
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