前回、文字起こしの仕事を見つけた。
長い時間をかけたトライアルを提出し、結果を待っている状態だ。
ただ、待っているのでは、時間がもったいないので、他に完全在宅で僕にもできる仕事はないか探していると「オーディオブックの音声校正」という仕事を見つけた。
オーディオブックのための台本を、本から作ったり、できあがったオーディオブックの音声をチェックする仕事だ。
本と台本は同じではない。
「前のページで述べたように…」という本ならではの表現があれば、「先程述べたように…」とオーディオブックのスタイルに合った表現に変える。
できあがった音声についても、読み間違えがないか探すのはもちろん、「ここのペースが少し速い」とか「ここのトーンが文脈に合わない」とか、そんな修正を加えていく仕事らしい。
面白そうだと思って、早速応募した。
するとすぐに返信が返ってきて、「履歴書」と「質問票」などの提出を求められた。
僕は紙の履歴書しかつくったことがなかったので、ネットで調べて、Web履歴書というものを時間をかけてつくりあげた。前に10年以上働いていたヘルパーの会社では、履歴書の提出を求められなかったので、さかのぼると、15年ぶりに履歴書を書いたということになる。
学歴と職歴の欄がスカスカでさみしい。
なにかで埋めたいけど、探しても、埋められるものはない。
履歴書のなかで、自己PRとして「昔、劇団に所属していた」ことと「文章が大好き」だということをアピールし、僕のブログのURLを貼った。それ以外は、アピールできることがなかったので、それだけだった。
多分、落ちるだろうと期待せずに待っていたら、文字起こしのほうのトライアルの結果が返ってきた。
合否は50:50じゃないかと思っていたので、どきどきしながら文面をスクロールすると、「残念ながら…」という枕詞があらわれた。
「あぁ、そうだよね。でも、また応募すればいいや」と画面を閉じた。
そのあと、ただオーディオブックの結果を待つわけにはいかないので、また文字起こしの仕事を見つけて、応募した。
そして、「なぜ前回のトライアルで落ちたのか」その理由を探すために、ネットを検索していた。
すると、文字起こしには「PC」と「モニターヘッドホン」の二つが必須だということがわかった。
前回のトライアルで、僕は飛行機でタダでもらった有線のイヤホンを使っていた。家のなかを探しても、いいイヤホンが見つからなかったし、「イヤホン一つでそんなに変わらないだろう」と思っていたからだ。
だけど、文字起こしをする人のブログを見漁っていると、みんなヘッドホンが大事だといっている。どうやら、使うのと使わないのでは、全然違うようだ。
そして、音楽用のヘッドホンと、文字起こし用のヘッドホンの違いについても書かれていた。
音楽用のものは「重低音を強調する」とか「高音を強調する」とかあるらしく、それは文字起こしでは役に立たないらしい。どの音も等しく、フラットに拾い上げてくれる「モニターヘッドホン」というものを使うのがいいということだった。
そして、文字起こしをしている人たちのなかで、ダントツで人気の高い商品があった。
これだ。
19,000円の商品だ。
文字起こしをするために、新聞記者が使う「ハンドブック」と31,000円の「Microsoft office 2024」をすでに買っている。ここで、中途半端なヘッドフォンを買ったら、これらを買った意味がなくなる。
「買うしかない」と答えは決まっていたけど、PCの画面の前で30分悩んだ。そして購入した。
まだ、働いてもないのに、お金がどんどん出ていく。でも、結果を出すには「こういう思い切りが大切なんだ」と、なにか崇高なビジネスマンのような気持ちになりきって、不安な気持ちを乗り切った。
そして文字起こしの会社から、返信が来た。前回の会社と同じように、トライアルセットも送られてきた。
文字起こしに入る前に、注意事項をしっかりと読む。
一回、経験している分、ゆとりがあった。
まだ、19,000円のヘッドホンは届いていないけど、PCのスピーカーで「とりあえずわかるところだけ文字に起こしておこう」と作業をはじめた。
前回と同じで、二種類の音声データが送られている。
最初のデータはなんと「同性婚」に関する講演会の音声だった。「これは僕の管轄内じゃないか!」と思い、スラスラと文字に起こしてゆく。荒削りな状態だけど、「19,000円」のヘッドホンが届いたら正確に書き直そうと、一旦放置することにした。
そして2つ目の音声に、面食らった。
まず、音の状態が悪くて、音が聞き取りづらい。
そして、「脳神経」のことに関する、大学の講義のような内容だった。専門用語がバンバン出てくる上に、それらも音声データの質が悪くて、なんて言っているのか本当にわからない。
かろうじて聞き取れた「錐体交叉(すいたいこうさ)」という訳のわからない言葉をネットで調べて、そこから知識を少しづつ広げるようにネットの記事を読み、また音声に戻ったけど、わからない!
何度も粘り、検索し、チャットGPTにも聞き、ほんの少し聞き取れるようになったけど、僕のWordの原稿は、のり多めの「のり弁」状態だ。
一旦、PCを閉じることにした。
そして、19,000円のヘッドホンの到着を待つことにした。
ヘッドホンを付ければ、魔法の世界が広がるかもしれない。聞き取れなかった言葉がみんな、僕の耳元で平等に広がる、優しい世界が僕を待っているかもしれない。
魔法の世界を聞きたい。

コメントが一件も来なくてさみしいので、コメントをください!