【テアラロア Day71】トレイル・プロバイズ

もくじ

恐れ

気持ちのいい、晴れた朝だった。

早速テントをしまい、次の街「ハブロック」に向けて歩きはじめる。

整備されたフラットな道を歩く。

そのあとは、牧場を通ったり、畑の横を歩いたりした。

あと五日で、この旅も終わるわけだけど、この旅にトライした理由の一つ「強くなりたい」という部分は叶えられたのか考えていた。

やっぱり、元の生活に戻ってみてじゃないと実感できないことだけど、いまのところ、そんなに変わってないような気がするような、ちょっとは変わったような気がするような…。

そんなことを考えていると、マオリのおじちゃん、ラトゥとの会話を思い出した。

会話のなかで、僕は「自分に自信がなくて、いろんなことを恐れてしまったり、勇気がもてなかったりする」ことを伝えた。

するとラトゥが「恐れというのは、自分にとって未知のもの対して、湧き上がる感情なんだ」

「うーん…例えば、真っ暗な夜道を歩くのは、見えないから怖いよね?でも歩いてみたら、なんてことなかったっていう経験があるでしょ。それと同じなんだよ」と言った。

そこで僕が「ということは、いろんなことにトライしていって、経験を積み重ねていけば、それに伴って恐れは減っていくということですか?」と聞くと、「そのとおり!」と教えてくれた。

他の人からしたら、こんなことは当たり前のことなのかもしれないけど、僕にとっては、ものすごくわかりやすい例えで、納得できた。

そして晴れた気持ちの良い天気のなか、真っ暗な夜道を想像して、歩いた。

トライし続けていけば、経験を積んでいけば、この夜道も次第に明るくなって、いま歩いているような、晴れた明るい世界を思いっきり歩ける日が来るのかもしれないと思うと、涙が出てきた。

トレイル・プロバイズ

しばらく歩いていると、ドイツ人のおじちゃんに出会った。

実は昨日、少しだけ会って話をしていた。

お互いに挨拶をして、一緒に歩いていると、ものすごい牛の群れに遭遇した。道は「この牛の中を歩け」といっている。

おじちゃんは恐れる様子はなく、堂々と歩いていたので、僕も「虎の威を借る狐」になってあとを歩いた。

どうやらおじちゃんは、アメリカの「パシフィック・クレスト・トレイル4000km」を去年歩いたらしい。

その中で熊にも6回、遭遇したようだ。

はじめに子熊に遭遇したあと、「やばい」と思ってゆっくり後ろを振り返ると母熊がいた。母熊はおじちゃんに向かって、攻撃する直前の姿勢をとっていたらしい。

そこで、おじちゃんは熊に落ち着いたトーンで話しかけながら後ろに3歩下がった、すると熊も2歩下がる。そして一定のトーンで話し続けながらまた3歩下がると、熊もまた下がる。そして熊は攻撃の姿勢をやめたようだった。

野生生物に対しては「堂々として自分の弱さを見せてはいけない。ただし、やりすぎて威嚇のようにもなってはいけない」ということだった。

ちなみにロングトレイルの言葉で、「トレイル・プロバイズ」という言葉がある。Trail providesで「トレイルが与えてくれる」という意味になる。

この言葉はベリーもよく言っていた。

ロングトレイルのなかで「トラブルやハプニングが起きても、毎回結局、誰かや何かのおかげでなんとかなる」という意味だ。

実際に、僕もそうだったし、ベリーもそうだった。おじちゃんもそうだったようだ。

おじちゃんとこの先にある「水上タクシーやフェリーの予約の仕方」について話していたときに、おじちゃんが「考えなくてもいいさ、トレイル・プロバイズ(なんとかなるよ)」といった。

人生もこうなのかもしれない。

ただ経験が少ないせいか、完全に人生を信頼しきることは、僕にはまだできない。

ユータさんに出会う

おじちゃんと二人で歩いていると、反対方向を歩く日本人TAハイカーに出会った。

彼が「日本人ですか?」と聞いてきて、僕が「そうです!」と答える。

ユータさんという名前で、とてもフレンドリーで面白い人だった。

お互いに情報交換をしているときに、僕が「この先に、牛だらけの中を歩かないといけないところがありますよ!」といって写真を見せると「うわぁ!」と反応が返ってきた。

「でも、牛よりも犬のほうが怖いんですよね」と彼が言った。

どうやら、歩いているときに、民家の犬が家の塀をくぐり抜けて、ユータさんを追いかけたらしい。彼は大丈夫だろうと思っていたけど、その犬に脚をかまれたようだった。

そのあとは、家の人に絆創膏を貼ってもらったけど、それでも血がダラダラ流れ出たらしい。歩きながら血を流している彼をみて、別の家の人が絆創膏を取り替えてくれたので、「犬にかまれたのは嫌な出来事だったけど、いろんな人と交流ができたので、プラスマイナスで若干マイナスですね」といっていた。

そのあと狂犬病が心配だったけど、医者の友人に連絡したら「いま、ニュージーランドで狂犬病は発生してないみたいだから、大丈夫」ということで、安心できたようだった。

そして一時間ほど立ち話をして、別れた。

面白い人だったので、一気に気分が明るくなった。

ドイツ人のおじちゃんはもう先に行ってしまったので、一人で歩いた。

ハブロック

舗装路を歩いていたんだけど、今までの舗装路とまったく違うところがあった。

匂いだ。海の匂いがする…!

そして、ハブロックという街に到着した。

歩いていると、リッチモンド山脈で出会ったエミリーを見つけた!

どうやら、リッチモンドで大雨が降ったあと、僕は川を渡ったけど、エミリーとジェームズは川を渡るのが危険だと判断して、一旦リッチモンドを降り、ヒッチハイクで別の街に泊まっていたようだ。

その二日後に、ジェームズはまたリッチモンドに戻り、エミリーはそのままヒッチハイクでこのハブロックに来たようだった。

そのあとは、予約していた宿に二人で向かい、お酒を飲みながら話した。

5時になると、ハブロックの名物「マッスル」と呼ばれる貝料理を、二人で食べにいった。

絶品だった…。

そして、スーパーで明日から歩く「クイーン・シャーロット・トラック」に向けての食料とアイスを買い、海岸まで歩き、アイスを食べながら話した。

いよいよ明日からクイーン・シャーロット・トラックだ。

反対方向から来るハイカーが、みんな口を揃えて「美しいところ」といっていた。

ドイツ人のおじちゃんも、エミリーもいるし、心強い。

明日が楽しみだ。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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