朝、出発する準備をしていた。
気が付いたらテントの生地がカビだらけだ。白いので余計に目立つ。
昨日の晩は雨が降ったので、生地が濡れている。「でも、もうカビが生えてるんだ。いまさら変わらないだろう」と思いテントを丸めた。
けど、やっぱり気持ちが悪いので、ひなたで乾かすことにした。

待っている間に、辺りをウロウロ探検しながら、写真をとる。


今日はリッチモンド山脈に入って、二日目。
まだそんなにハードな局面ではないけれど、この日は陽射しが熱いなか、小刻みなアップダウンを繰り返したので、かなり疲れた。

途中、こけたり、足をひねりそうになったり。
暑さの中、ただ下を向いて歩き続けた。

あと少しでゴールだと思うと、希望と雑念が湧いてくる。
そして、あまり浮かれた気持ちでいると、滑落したり、脚を怪我して、大変なことになるかもしれない。
だから、浮かれそうになる気持ちを抑え続けて、下を向いて歩いた。

反対方向から来るハイカーも少なくなってきた。
一時期は、40人もすれ違ったという情報があったけど、僕がクライストチャーチで安静にしている間に、みんな通り過ぎたようだ。
それでも一日5組くらいのハイカーと今もすれ違うけど、そのハイカーのほとんどは、南島を北からスタートしたばかりの、フレッシュなハイカーばかりだ。
北島の北から1700kmを歩いてきた、いままでのハイカーとは、かもしだす雰囲気がまるで違う。
スタートしたばかりのハイカーは「まだ、あまり目が覚めていない」といった印象だ。
そんなことを考えていたら、足をひねるかもしれないので、また自分のことだけに集中する。

途中で二つのハットに寄った。

反対方向のハイカーと話をしたり、同じ方向を歩くハイカーと出会ったり、昨日会ったパブロたちとまた出会ったり。
でも僕は、人がたくさんいるハットだとリラックスできないので、しばらく話したあと、また出発した。
そして今日も、自然のなかにテントを張った。
落ち着く。

僕は子供のときから、一人でいるのが好きだった。
ちなみにパブロは僕と同じで、一人で歩くのが好きだといっていた。
しばらく時間を共にしたケイロブも、僕と同じで、人がたくさんいるところは苦手だといっていた。
ドイツからきたマヌーも、自然が好きで、一人でいるのが好きだから、よくテントを張っていた。
ベリーはいろんな人とよく喋るし、あまり周りの目を気にしないけど、元々は僕と同じ繊細な人間だったらしく、自分をトレーニングすることでだいぶ克服したけど、そのなごりは残っている。
夜、人がもういないだろうという時間に、川まで歩いて身体を洗った。
見上げると、青い空に穏やかなオレンジに染まった細長い雲が浮かんでいる。きれいだった。
このまま、この夕暮れに包まれていたい。
日中の晴れた青空は気持ちがいいけど、なんとなく、僕の表情や態度も晴れていないといけないんじゃないかと思って、少し無理をしてしまう。
雨の日は、無理に元気を出さずに、下を向いてトボトボと歩いていいんだと思える。
この日の夕暮れは、ただ見とれているだけで、まるで家に帰ったかのような安心感をくれた。
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