【テアラロア Day64】一人が好き

朝、出発する準備をしていた。

気が付いたらテントの生地がカビだらけだ。白いので余計に目立つ。

昨日の晩は雨が降ったので、生地が濡れている。「でも、もうカビが生えてるんだ。いまさら変わらないだろう」と思いテントを丸めた。

けど、やっぱり気持ちが悪いので、ひなたで乾かすことにした。

待っている間に、辺りをウロウロ探検しながら、写真をとる。

今日はリッチモンド山脈に入って、二日目。

まだそんなにハードな局面ではないけれど、この日は陽射しが熱いなか、小刻みなアップダウンを繰り返したので、かなり疲れた。

途中、こけたり、足をひねりそうになったり。

暑さの中、ただ下を向いて歩き続けた。

あと少しでゴールだと思うと、希望と雑念が湧いてくる。

そして、あまり浮かれた気持ちでいると、滑落したり、脚を怪我して、大変なことになるかもしれない。

だから、浮かれそうになる気持ちを抑え続けて、下を向いて歩いた。

反対方向から来るハイカーも少なくなってきた。

一時期は、40人もすれ違ったという情報があったけど、僕がクライストチャーチで安静にしている間に、みんな通り過ぎたようだ。

それでも一日5組くらいのハイカーと今もすれ違うけど、そのハイカーのほとんどは、南島を北からスタートしたばかりの、フレッシュなハイカーばかりだ。

北島の北から1700kmを歩いてきた、いままでのハイカーとは、かもしだす雰囲気がまるで違う。

スタートしたばかりのハイカーは「まだ、あまり目が覚めていない」といった印象だ。

そんなことを考えていたら、足をひねるかもしれないので、また自分のことだけに集中する。

途中で二つのハットに寄った。

反対方向のハイカーと話をしたり、同じ方向を歩くハイカーと出会ったり、昨日会ったパブロたちとまた出会ったり。

でも僕は、人がたくさんいるハットだとリラックスできないので、しばらく話したあと、また出発した。

そして今日も、自然のなかにテントを張った。

落ち着く。

僕は子供のときから、一人でいるのが好きだった。

ちなみにパブロは僕と同じで、一人で歩くのが好きだといっていた。

しばらく時間を共にしたケイロブも、僕と同じで、人がたくさんいるところは苦手だといっていた。

ドイツからきたマヌーも、自然が好きで、一人でいるのが好きだから、よくテントを張っていた。

ベリーはいろんな人とよく喋るし、あまり周りの目を気にしないけど、元々は僕と同じ繊細な人間だったらしく、自分をトレーニングすることでだいぶ克服したけど、そのなごりは残っている。

夜、人がもういないだろうという時間に、川まで歩いて身体を洗った。

見上げると、青い空に穏やかなオレンジに染まった細長い雲が浮かんでいる。きれいだった。

このまま、この夕暮れに包まれていたい。

日中の晴れた青空は気持ちがいいけど、なんとなく、僕の表情や態度も晴れていないといけないんじゃないかと思って、少し無理をしてしまう。

雨の日は、無理に元気を出さずに、下を向いてトボトボと歩いていいんだと思える。

この日の夕暮れは、ただ見とれているだけで、まるで家に帰ったかのような安心感をくれた。

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著者

栃木県在住の34歳。
34年間住んでいた愛媛県から、栃木県に引っ越したばかり。仕事もやめて、無職になる。同性愛者・躁うつ病患者(現在は寛解している)。趣味は登山。フィリピン人のパートナーと生活しながら、社会の壁を乗り越え、楽しい日々を送るため、人生をサバイバルしている。

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