二ヶ月
ついに60日目の朝を迎えた。

60日といえば二ヶ月だ。
正直、テアラロアを計画しているときは、二週間くらいで寂しくなって日本に帰るんじゃないかなと思っていたので、僕には衝撃的な数字だった。
この日は朝から、小雨が降っていた。

湖の周りを歩く。

昨日と同じで、綺麗な景色がひたすら続く。ここに来るまでにすれ違う人のほとんどが「このセクションの景色はすごいよ」と口を揃えていた理由がわかる。





きれいな森
しばらく歩いてハットに着いた。
ハットの備え付けのトイレで、大便をするのが日課だ。
ぼけーっとしながら、トイレを開ける。ドアが開かないので、鍵をガチャガチャして開けると中に人がいて「ヘイ!」と言われた。
とっさに「ソーリー!I am so sorry!!」と言葉が出る。間違えて人が使っているトイレの鍵をこじ開けて、ドアを開けてしまったようだ。
そして隣にあった、もう一つのトイレに移動する。
ん?
そういえば、トイレの中の人に見覚えがあるぞ。テアラロア3日目に出会った、ドイツ人だ!
そう思い、トイレから出たあとに話しかけた。そして「ボケーっとしていて、間違えて鍵を開けてしまった。ごめんなさい」も付け加えた。
すると「気にしなくていいよ。トリッキーなトイレだからね」と返ってきて、しばらくハットのベンチで話す。
「これまでで、どのセクションがよかったか」「いままでどうしていたのか」なんかを話した。
しばらく話したあとに、僕は先に出発した。

そして足元を見ながら歩いた。

というのも、さっきのトイレでトイレットペーパーを全部使い切ってしまったからだ!
次にボックスを受け取れる街に着くまで、あと二日はある。

なので、お尻を拭くのにいい葉っぱはないか、足元を探しながら歩いていた。

しばらく歩くと、男性ハイカーと出会った。
彼の名はビクター。挨拶をしたあとに「頼みがあるんだけど」と言わたので聞いてみると、彼のガールフレンドが、彼が道に迷ったと思い込んで、探しているらしい。
通信機器でやり取りをしていたけど、ガールフレンドがいる森の中は電波が悪いので、メッセージが届かない。
そのうち、メッセージが届いてなんとかなるだろうけど、もし彼女に会ったら「彼は無事だ」と伝えてくれないか、ということだった。
了解!
ビクターの彼女を探しながら、お尻を拭く葉っぱも探しながら、きれいな森を歩く。

そして2kmほど歩いて、ビクターの彼女を見つけた。「彼は無事だ」と伝えると、「どうも、ありがとう!」と歩いていった。

生きている!
そのあとは、雨が強くなってきた。
ニュージーランドで久しぶりの雨だ。カッパを着て歩く。そして、今日の目的地に着いたので、テントを広げた。

そのあとは近くの川で、身体と髪を洗った。
雨が降る、寒い空気の中、全身ビショビショになって、テントまで戻る。
寒い!

テントの中に入ると、外の雨の音が小さくなる。そして紅茶を沸かしながら休んでいると、テントの中に生暖かい湿気が充満して、ホッとする。

いつぶりだろう。
雨の日に全身びしょ濡れになるなんて。まるで小学生みたいだ。
あの頃の、雨でびしょ濡れになったあとに、家に帰り玄関に立ったときの、身体から湯気が出てほんのり気持ちよくなる感じや、ザーザーとうるさい雨の音が家の壁で遮断されたときの安心感、そして何かから逃げ切れたような幸せな感じを思い出す。
生きた心地がした。

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